夢の中へのノクターン
□忘れたとは言わせない
1ページ/1ページ
部屋の襖の隙間から光が射す
(もう、朝か…)
昨夜はあまり寝付けなくて未だ眠気を誘いながらも隣には可愛らしい寝息をたてながら眠る愛しい人がいるから目が覚める
頬には涙跡があって泣きつかれて自分の腕の中で自然に寝てしまった後にも涙を流していたのか、と心苦しくなる
「…ごめんね千鶴、」
優しく髪を撫でる
そして千鶴を起こさないように、そっと布団から出る
静かに襖を開け、眩しいくらいの光に包まれた縁側に出る
(まだちょっとしか経ってないのに懐かしいな)
いろんな思い出が蘇り思わず頬か緩む
そんな時間を過ごしていると物音がして勢いよく襖が開かれた
振り向けば普段の彼女からは、あまり想像出来ないくらいの形相を浮かべている
「どうしたの?千鶴?何か急ぎの用事でもあるの?」
そんな千鶴に総司は驚きを隠しながら微笑む
「……よか…った」
「え?」
「……良かったです」
「?どうして…?」
千鶴の発言に疑問を抱く総司
「…いなくなったのかと、思いまし…た……夢…だった…のか、と…っ」
泣き出す千鶴の言葉に、どうしようもなく胸が締め付けられて、お互いがお互いの存在を確かめあうかのように抱き合って、抱き合えば確かに熱や感触や香りに包まれて
「…何言ってるの、僕は昨日千鶴におかえりなさい、って言ってもらったんだよ。君に"いってらっしゃい"って言われてないのに、いなくなるわけないでしょ…?」
「…だっ…て…」
「折角戻ってきたのに昨日から僕を見れば泣いてばっかりじゃない」
微笑しながら髪を撫で、
「ごめ…んな…さ、い、勝手に…涙が……」
「…ううん我慢しないで、もっと泣いて良いよ」
「総司さん…は、いつもそれ…言いま、すね」
少し泣き止んだのか先程よりも声が聞きやすい
「だって…僕が君を泣かせるようなことをして泣かせているのに、自分が千鶴の泣き顔を見るのが辛いからって君に
"泣かないで"
…なんて我慢させるような、そんな酷なこと言えないよ、君の泣き顔を見るのが辛くても、きっと君の方が…」
(…もっと辛いんでしょ?)
「…?」
総司の不自然に途絶えた言葉に、キョトンとする千鶴
「…それに、いつも言ってたじゃない」
「…私がどんなに泣いても総司さんが拭ってくれるんですよね、忘れませんよ」
貴方との会話はおばあちゃんになったって忘れませんよ、そう言って少し涙目で千鶴は微笑み
「…はは!千鶴は面白いこと言うね…。うん、僕もおじいちゃんになっても忘れない…。…約束ね?」
「はい、守って下さいね」
そうしてお互い小指を出して指を絡めた
おじいちゃんおばあちゃんになっても、
生まれ変わっても、
離れ離れになっても忘れたとは言わせない
(何度だって追憶を重ねるんだ)
fin
*********
お互い守りきれない約束と分かっていても約束を交わす二人が好き
叶えてあげたくなる