夢の中へのノクターン
□ごめんなさい、
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僕がこの部屋で過ごして何日がたったのだろう
「……はっ…っぐ…ぅ…ごほっごほ…!」
口を押さえた手のひらにはもう何度見てきたのだろうと、血がついている
(そういえば、この時間ってもうすぐ千鶴ちゃんがご飯持って来るんだっけ)
全く情け無さすぎて己に苛立つ
その苛立ちは仕方の無いことだと分かっていても、やはり
"どうして自分が"
と思ってしまうのが人間である
どんなに広い心を持ち合わせていても自分に向けられた病の理不尽さを憎まずには、いられないのだ
(今は来ないで欲しいんだけどなぁ…)
八つ当たりしてしまいそうだ
どうして彼女に自分がここまで気をつかうのだろうか
そんなことを考えていたら、ぱたぱたと、もう聞き慣れてしまった足音が聞こえてきて沖田の部屋の前で小さな影が止まった
「沖田さん、ご飯をお持ちしました」
(…今は来ないで欲しいのに…)
時悪く益々苛立つが毎日笑顔で"わざわざ持ってきてくれている"千鶴への恩を感じずにはいられず、いつも通りの声で話す
「…ありがとう千鶴ちゃん…今日はそこに置いといて良いよ。後でちゃんと食べるから」
「…え?でも…」
沖田のいつもと違う返事に千鶴が戸惑った声で話す
「大丈夫ちゃんと食べるから」
こうやって襖越しに彼女の声を聞くと何か近くにいるのに遠く感じる
それが少し寂しさを感じる
千鶴ちゃんと会いたくない、
という訳ではなく今は、
誰とも会いたくない、
のだ
「……………」
立ち上がったのか千鶴の影が動いて、大人しく引き下がるのかと思えば襖が開かれた