夢の中へのノクターン

□愛しているって言葉さえも、
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「ねぇ千鶴、僕ね今少し願い事をしてみたんだ、」


柄にもないことするよね、と夜空を眺め自分で言いながら笑う総司に千鶴は何を願ったのかと問う



ふと思ったことのように、だけれどずっと秘めていたかのような声で総司が言った




「千鶴がね、どんな時でも笑えますように、って願ったんだ」



言葉自体は単純なのに彼が言うと、とても重いものに感じられる





「もし僕がいなくなって、君が泣いてばっかりでも愛されていた実感が出来て嬉しいけど、やっぱり悲しいかな、」





「いつまでも依存して僕とのことを追念していたら嬉しいけど、君が前を向けない気がして怖いんだ、………どうしてか分かる?」


総司の問いに千鶴は少しの間、考え首を横にふる

千鶴を見る総司の目は千鶴を見ている筈なのに何処か遠くを見ているようにみえて千鶴の心は、ざわつく





「あのね、僕のことを思い続けて先に進めなくなったら、それは過去に囚われて動けないってことでしょ?
それは君自身が"変わらない、変化しない"って意味に僕は思うんだ」


総司の言葉に千鶴はよく分からない、という表情



「…僕は笑ったり泣いたり怒ったり、いつも変化していく千鶴が好き。君が生きているって思えるから」



そして沈黙が流れ総司が、どこか辿々しく呟いた


「僕が居なくなったら時には君は僕のことを忘れてしまうかも知れない、それでも構わないよ、君が前を向けるならそれだって良い」


総司の言葉に千鶴は嫌だ嫌だと泣く子供のように首を横にふり泣き出し嗚咽をあげる



「…でも僕は我が儘で貪欲だから、もし君の記憶から消えてしまおうとするなら君の前に現れると思う

君が誰か違う人に心惹かれようとするなら迷わず君の心を取り返しに現れると思う…」




そう言って彼女の壊れた蛇口のように溢れ出す涙を拭い力強く抱き締め



言ってること矛盾してるよね、と彼は冗談みたいに笑う





「…ごめんね僕、自分勝手で優しくないよね、死んでも君を沢山君を傷付けるような真似をするなんて酷いよね」




その言葉に耐えられなくなったかのように千鶴は無言で自分の顔を手で覆う



そんな千鶴を総司は深く深く抱き締めて小さな声で囁いた



「………いつか僕だけの言葉を君に伝えたいな」



千鶴は少しの間泣いた後、泣きはらした顔を上げた




「…いつ…か…聞かせて下さ、い。聞かなくたって総司さんを忘れない自信だってあります…。けどそれが総司さんとの記憶の要になるのなら……聞きたいです」



そんな彼女の言葉に締め付けられる喉の痛みを覚えながら、



「…うん。僕は君に忘れないで、なんて言葉は言わない」












愛しているって言葉さえも、

(軽い言葉にしか聞こえない我が儘で伝わるのか不安で臆病な二人だから)



忘れたくないと日々、僕を思おうとする千鶴だろうから

自分から過去に進む彼女になって欲しくない、





(僕と君だけの言葉をいつか見つけて伝えて、)


(そうして君の中で永遠の声になりますように、)




fin


どんなに思っていても、どんなに大事な記憶でも無くなっていくかも知れないから

ただ一つ確かな言葉があれば、無くなってしまったとしても二人の記憶に繋がるかもしれない

欲を言えば転生した後、全て忘れてしまっても言葉一つを記憶の要としてれば、きっと


それが千鶴と総司だけの言葉なら良いな


千鶴の記憶から総司が消えたら本当に亡くなってしまう気がするのです



 

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