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□金魚鉢
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魚は最後、どこを見て、どのように感じて死んでいくのか
なんて、一人寝たきり生活を始めて何日か経った、ある日考えてた
(…僕は)
「沖田さん、お食事をお持ちました」
僕の考えを遮るかのように彼女の声が耳に届いた
「ありがと、入っていいよ」
その言葉と同時に襖が開かれ、いつものように彼女がカチャカチャと慎重に運んでくる
そんな真剣な眼差しの彼女をからかいたい衝動にも駈られるけど食事が床に落ちてしまったら近藤さんが悲しむから、やめておこっかな
(あ…)
"近藤さん"が脳裏に過り、ふと声に出た
「…近藤さんは、新選組は、まだこんな僕を必要としていてくれるのかな?」
こんなこと彼女に聞いたって心配させるだけで意味が無いのに
案の定、彼女は眉を歪めた
「そんな…っ必要としてますよ!」
ほらね、
でも千鶴ちゃん、今の僕には君のその優しさは一番辛いな
お前なんか要らないって言ってくれた方が諦めが付くかもしれないのに
「ねぇ千鶴ちゃん、魚は最後どこを見て、どのように感じて死ぬんだろうね?」
「え…?」
「最近よく考えるんだ、あの長い長い無限に広がる水の中で彼らは、どんな世界を目にして死ぬのかな、って」
「─……っ」
そんな僕の言葉に千鶴ちゃんは溺れたように苦しそうで
「窮屈な金魚鉢に入れられている金魚は鉢の外の世界に希望を抱きながら死ぬんだろうね」
「…そう、ですね」
「けど大事な人といつまでも傍に居れて最期は大事な人を見ながら死ねるなんて案外金魚鉢の中も捨てたもんじゃないかも」
あはは、と笑う
「…沖田さんは金魚鉢から追い出されなんかしませんよ」
「…え?」
千鶴はギュッっと袴の生地を深く皺をつくりながら掴み沖田を見つめる
「出て行く時は皆で新しい世界を観たいですよね、…金魚鉢から一人で出て行くって恐いことだと思います」
私も一人で父様を捜しに出る時、恐かったですから…と語る彼女の言葉はとても説得力があった
「…うん、僕まだ金魚鉢に、新選組にいたいな」
僕が、そう言えば彼女は微笑んだ
「はい、貴方が、ここにいたいと思うことが大事なんです」
金魚鉢
(どうか広い水の中に逃がさないで追い出さないで)
(まだ僕は皆と泳ぎたい、戦いたいから)
fin
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あれ?(どうか広い〜)の部分、最初は「僕が金魚なら君は酸素」ってしたかったのに話が変わってしまいましたので…ね、
また夫婦設定で書きたいです