ミジカメ

□汚れた足
1ページ/1ページ

夕暮れの浜辺に無防備に横たわり、波に足を洗われるランカを見つけた。
白い砂浜にぽつん と緑色が見えたので、もしかしてと思って近づいてみたら、案の定だった。

「風邪ひくぞ」
なんて声をかけたが、本当に心配なのは風邪じゃない。
誰かに、ひょいと持ち上げてさらわれてしまったらどうするっ!と、半ば説教的な気持ちだった。

俺の声に、うっすらと目を開けて、ランカが微笑んだ。
「あるとくん…」
うっとりしたような甘い声で呼ばれて、危うくがっついてしまいそうになるが我慢する。
「アルトくんも一緒に寝転んでみて。海にさらわれるみたいな感じがするよ…」
半分閉じた瞳は睫毛の影が落ちて、夕日をとろりと反射する。
「俺は遠慮しとくよ。ランカがさらわれないように見張っとく。」
護衛だからな。
そう言ってつっ立ったままランカを見つめた。

イメージムービーの撮影とやらの為、以前、"鳥の人"の撮影で訪れたことがあるこのアイランドに来たのは三日前。
映画撮影の時は、まだ自分の気持ちにも全然気付きもしないで、振り回されてばかりで。
結局、まだ俺は距離が縮まらないまま、ランカと二人でこの場所に来た。

「海って不思議だね…何でも…洗い流してくれるみたい…」
目を閉じ、ぽつりぽつりとくちびるを動かす。
ランカの白い脚がふくらはぎまで波に洗われて、膝丈の白いワンピースのすそが飛沫で点々と濡れていた。
どこかから流れ着いたような体に、思わず拾い上げたくなる。
「でも本物じゃないからな。クリーナーで何度も洗浄された、使い回しの海水だ。」
洗い流しはしてくれるだろうが、何でもとは行かないだろう。
「ふふ…」
ランカが小さく笑った。
素直に下ろされている腕は砂より白い。
「あ…とく……ムードな……い…わる…」
「ん?」
所々聞き取れなかったので聞き返すと、ランカは眠ってしまったらしく、無言だった。
「ほんとに風邪ひく…」
起こそうとしたが、安らかな寝顔を見ていたい なんて思ってしまって、つい横に座って見つめた。


ザッ…ン


波がいつの間にか近くまで迫り、ランカの膝上まで洗いはじめた。

ヤバイ…!

とっさに抱き上げて波から逃げる。
いわゆる"お姫様抱っこ"をして、滞在先のホテルまで行くのは少し恥ずかしかったが、抱き方を変えて起こしてしまったら可哀そうだ。

このまま、ランカをどこかに連れ去りたい。

俺だけを見て、笑いかけてほしい。

そんなよこしまな俺の足を、波が洗っていく。

純粋なランカに釣り合うくらい、浄化されてしまえば良いのに。
俺の手も腕も胸も
ランカに触れている全部が喜んでいるのが分かる。



好きだ



こっそり翡翠の髪に顔を埋めてキスを小さく落とした。

いつか伝わるように、願いを込めて。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ちまちま更新になってしまってすみません(;´Д`)
ちょっと乙女ゲーみたいなシチュを書いてみたくて、がんばってみましたが…
どうでしょうか…
タイトルは中谷美紀の歌より。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ