SAお題小説
□逃亡
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私達兄妹は、物心ついたときにはすでに施設にいました。
親という存在を知らず、そこで暮らしていました。
親を知らない子ばかりがこの施設にいました。
1人だけ、親を知っている人がいました。
「親ってどういう人?」
「どういう人?」
「…今は、まだ2人とも知らなくていいんだ。」
「どうして?」
「どうして?」
「いつかわかることだからさ。」
「うーん…親ってなんだろーね!」
「わかんない!」
「さあ、そろそろ呼ばれるから早く行こうか。No.210、211。」
「「はーい!」」
「大丈夫、君たちの親は優しい人だ。故意でここに入れたわけじゃないから、恨まないであげてくれ…。」
彼の声は誰にも聞かれることなく消えた。
あの人に何回も親のことを聞いてみたけど、教えてくれませんでした。
ここでは名前で呼ばれることはなく、番号で呼ばれる、それが普通の場所。
でも、外の世界ではこのことは"異常"。
私は普通だと思っていたから、苦しいとは思いませんでした。
しかし、しばらくして、そこでの生活が辛いと言っている人がいました。
彼女達は脱走しようとしました。しかし、外の世界を知らない彼女達は逃げ切ることも出来ず、すぐに捕まりました。
何度も逃げようとしました。何度も捕まりました。捕まる度に彼女達は、苦しい、嫌だ、死にたい、その言葉を言う回数が増えていきました。
私にはわかりませんでした。
でも、いまならわかる。こんな場所、なくなってしまえばいいのに。
『普通の生活していただけなのに、何故ですか?何故、私達を傷つけるのですか?私達は、何か悪いことをしたのでしょうか…………?』
『君たちは何も悪いことはしていない。ただ、このために生まれてきただけだ。』