SAお題小説

□逃亡
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私達はここで育ってきた。

苦しかったけど、私には妹と"あの人"がいたから平気だった。

ナンバーは390番。


ある日、妹に呼ばれた。


「ねぇ、フレール。」


「なんだい、スール?」


「…No.390が好き?」


「―――っ!!」


「あははーやっぱりー!」


「…絶対に言わないでくれる?」


「うん、言わない!フレールが恋かぁ…ふふふ。」


「笑うな!スールだっていつか…!」


「……そう、だね。……うん、いつかな?それまで生きてるかな、私。」


「…スール……。」


あの妹の切なそうな顔は忘れられない。


そして、その日の夜。


「No.390。来なさい。」


「……………はい。」


"あの人"がアイツらに呼ばれました。

あれが最後でした、私が知っている"あの人"を見るのは…。










次の日、No.390は変わり果てた姿で帰ってきました。


顔に包帯を巻いて、目には光がありませんでした。


「どうして、どうしてだよ!!」


「フレール!」


「…どうしたの?私は大丈夫だよ?"フレールさん"。」


「違う、違う違う!!私はNo.210!!フレールって呼ぶのはスールだけ!!」


「…ご、ごめんなさい…全然覚えてなくて…。」


「どうして!?なんで、なんで友達のこと覚えてないんだよ……………!」


「フレール!もう、しょうがないよ…。」


「…ううっ…どう、して…どうして…。」


「ごめんなさい、No.390。気にしないでいいから…。」


「スールさん…。」


「いいえ、私はNo.211。スールって呼ぶのはフレールだけ。…名前があれば、ややこしくないのに。」


「え、でもスールって…?」


「スールは"妹"、フレールは"兄"って意味。…前に言ったけど、やっぱり覚えてないよね。記憶、いじられたんだよね。」









あれからしばらく経って、No.390は少しずつ戻ってきました。

記憶が戻ったわけじゃないけど、以前のような感じになってきました。

兄も、元気を取り戻してきました。


「ねぇ、No.210と211。」


「なーに?No.390?」

「どうしたの?」


「ここの生活、楽しい?」


「え、いきなり何?」

「なに、いきなり。…辛い方が大きいかな。」

「フレールに同じく。」


「そう、だよね…。」


「「?」」
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