跡部景吾の庶民体験記録
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「なんだ、このちっこいの?」
ついにこの2人が出会ってしまった…。
跡部景吾の
庶民体験記録
はぁ・・・
あたしは誰にでも、どんな奴にでもわかるくらい盛大な溜め息を1つついた。トボトボと重い足を運びつつ、チラリと隣の男の顔をみる。
「アーン?どうした、溜め息なんかつきやがって」
「どうしたじゃねーよ。」
「なんだ、まだ拗ねてんのか?」
「拗ねてません」
「拗ねてんだろーが、めんどくせぇ奴だな」
うるせーよ、そりゃ拗ねたくもなるわ。本来なら自転車でスイスイって行く予定だったからもっと早くひなかに会える計画だったのに、この野郎が居るせいで徒歩だし。しかもあたしはひなかと2人で、2人でのんびりまったりと帰りたかったのにこの野郎のせいで3人だし。何が楽しくてこんな奴と仲良く歩かなきゃいけないんだ。
…てか、
「跡部」
「あ?」
「歩くスピードさげて」
「何駆け足してんだ?てめー」
「アンタが速いんだっつーの!もう少し気使えよ!」
「俺様に命令するんじゃねーよ」
「ああもういいよ、もう勝手にどこまでも先に行っちまえ。あたしの視界から見えなくなるまで行っちまえ。んで、もう帰ってくんな」
「ハッそんな寂しがることねーだろ」
「…」
やば、今猛烈にめんどくさいと思った。心の底から思った。
これだからエスの男って嫌なんだ。特にこの"俺様至上主義"なのは1番めんどくさい。最悪。あたしが今まで出会ってきた男の中でダントツにめんどくさい。何がめんどくさいって、あーとにかくめんどくさい。
あたしはさらさら歩くペースを緩める気なんて無い跡部と少し距離をあけてその後ろから着いて行くことにした。だってあいつスタスタ先頭きってるけど、絶対目的地がどこにあるか知らないよ。そんな跡部は通り過ぎて迷子になっちゃえばいいんだ。「どこにあんだよ!何で教えてくれねーんだよ!」とか行って焦ってくれたらいいな、最高に面白い。
「ここだな」
「…」
しかしそんな期待とは裏腹に、跡部が立ち止まった場所は、まさしくあたしのお婆ちゃん家。何こいつ?死角無し?弱点無し?
ふと奴の右手を見ると、母が渡したであろうメモが握られている。くそ…なんかムカつく。
そんなあたしなどお構い無しな跡部は、サッサと玄関前まで行き、サッサとインターホンを押した。もうちょっと躊躇えよ。
インターホンが鳴って数秒、パタパタと小さな足音が聞こえてくるもんだから、あたしの心臓は一気に鼓動を増した。
そして、ガラガラと扉が開き…
「ねぇねー!!!」
笑顔いっぱいのひなかがあたしの胸に飛び込んできた。
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