TEXT稲妻7

□log
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まさか、こんなに溺れるなんて思ってもいなかった。


今日も孤立した感情だけが浮足立って、俺を中谷のもとへと急かす。そりは割と、本当のことを言えば合わないほうだと思う。俺はいつだって真っすぐなものが好きだった。人間で言えば円堂みたいな、一点の迷いもなく走り続けられるようなやつが好きだった。好きなはずだった。
中谷は出会った当初からわからないやつだった。奈良最強だって噂は聞いていたし、ちらほらテレビで取り上げられているのを見たこともある。そのたびに俺はこいつを、「調子乗ってるな。」と決め付けて、鼻息を荒くしたものだ。

ほとんど同じ時期にキャラバンに参加した俺達だったが、あいつは俺と違って一人でいることをよく望んでいた。いつも窓際に座って、時々ふと遠くを眺めては、何を考えているのか静かに瞼を閉じていて。
その姿を俺はただ見つめる。ほっそりした輪郭を顎から視線で辿り、少し青白い頬に無性に触れたくなる。長いとは言いにくい睫毛が震え、かちりと深緑の双眼と目が合う。
そこで俺は、いつも自分の無意識の行動に気がついて体を固くするんだ。


「六甲くん?」
「な、なんでもない!」
「…ごめん」


俺の予想外に張り上げてしまった声に、大袈裟なほどびくりと肩を揺らして、中谷はまた視線を落とした。
何となく後ろめたい気分になって、そのまま逃げてしまいたくなった。

簡単なことだ。じゃあな、と吐き捨てて、トイレ休憩でキャラバンを降りている仲間たちのもとに行けばいい。それだけで俺は、このなんとも言えない空気を打破することができる。


「なんで謝るんだよ!」
「あいたっ」


だけど俺は、そうしなかった。

代わりに中谷の隣にどかりと腰掛け、おろおろするそいつの前髪で隠れたでこを指先で弾いてやる。たいした威力はないが、痛がる中谷の反応にまあまあ満足した。


「ろっ…こう、くん?」
「気分だ」
「え?」
「今はこういう気分なんだ」


ぶすっと、しかもふてぶてしく言い放った俺は、はたから見たらかなり感じが悪い印象を受けるだろう。
だけど、それでも中谷は、小さく微笑んで。


「ありがとう」


なんて、言うから。







人を信じることに疲れたこいつは、それでも人の小さな思いやりに気付いた。
人を信じることを放棄したこいつは、それでも俺を拒んだりはしなかった。

きっと、まだ求めているんだ。こいつだけは信じてもいいんじゃないかって、そう思えるやつと出会うことを。
(俺は、)
もしかしたら、そういうことなのかもしれない。



「なあ、中谷」
「なに」
「サッカー楽しいか?」
「……そうだね。僕は、楽しいと、思うよ」



もしも、
この感情を肯定的な意味で捉えるとしたら。




「俺と一緒でもか?」
「……君と一緒だから、じゃ駄目かな」






長々と語ってしまったが念のためにもう一度言うと、俺は中谷とそりは合わない。ああ、笑いたきゃ笑えばいいさ。気付くには遠回りしすぎたと反省してるよ。

つまり俺が一番言いたいのは、自分でも馬鹿だと思うくらい、俺があいつを大好きだったってことだ。






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企画様に提出させていただきました。
誰得?俺得!(^q^)






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