TEXT稲妻7
□log
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一度は、手放した絆だった。
もう何度俺はあいつに殺されたのだろう。いくら考えたところできりがない答えを、探してまた目を閉じる。
心地よい静寂と暗闇。しかしどうして、俺はこの静けさがどうしようもなく憎いのだ。
俺は今日も何度目かの死を迎える。残ったものは意味もなく繋ぎとめられている意識だけだ。わかっている。俺は、異常だ。
それでも俺は、春奈が愛おしいだけだった。
「……アイス、食べに行きたいな」
唐突にそう春奈が切り出した。今しがた使っていた練習用のサッカーボールをしまいつつ、目だけであいつの姿を捉える。
「俺とか?」
「嫌?」
「……嫌では、ない」
やんわりとそう告げれば、不安げに曇っていた春奈の瞳にぱっと光が宿る。優しい、温かい光。
春奈は母親似だ。細く柔らかい髪の毛や、笑った時に出来る目尻のしわなんかそっくりだ。娘は父親に似るとよくいうが、どちらかと言えば父親の面影があるのは俺の方だった。
春奈にそれを話してみたこともある。が、あいつは「お母さん、かあ。」とふわりと笑って、それから至極さみしげに目を伏せたから。それ以上、何も言えなかった。
春奈は覚えているだろうか。
幼いころ、確かに存在していた血の繋がった『家族』のことを。
――覚えていないほうが、俺は幸せだったのかもしれなかった。
「私、いちごにしようかな」
「昔から好きだったな」
「でも、チョコも捨て難い!」
「一つにしておけよ」
「へへっ、いざとなったらお兄ちゃんと半分こにすればいいもん」
ね、と笑いかける春奈は本当にずるいやつだ。バイオレットに宵の空を足したような色合いの瞳が細められる。やはり春奈は母親の笑顔にそっくりだった。
ならば俺はこの笑顔の側にありつづけるために何をすべきか。
「あ、やっぱりいちごもチョコもやめようっと」
「?」
「今は、ミントが食べたいな」
「……そうか」
春奈は、知っているのだろうか。
知っていたら、きっとそれは幸せなことなのだろうな。
ミントアイスは俺のお気に入りで、いつも春奈に一口あげていたものだということを。
何度でも殺されたっていい。
明日また生き返って、また春奈と共に生きていけるのならば。そうだ、俺は、春奈が大好きなだけなのだ。
死にそうに甘い
ハッピーデイズ
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企画提出文。
鬼春ですが、一応家族愛的な方向の文になりました。