★Petit sanctuary★

□TATTOO
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「お前が切って」



そう言いながら僕にハサミを渡したあなたの手は震えていた。



僕は黙ってそのハサミを受け取り、彼の髪に触れる。



彼の髪を指に絡めながら、彼と初めて会った時のことを思い出していた。



今でこそ短めにしているけれど、当時の彼は襟足が隠れるほど髪を伸ばし、一瞬女性かと見紛うほどで。



その瞳は深く、見据えられると何もかも見透かされてしまいそうで、何度その視線から目を逸らしただろう。



それでもやっぱりあなたは僕の気持ちに気付いていた。



いや、僕が隠しきれなかっただけなのかもしれない。



鏡に映るあなたを背中から抱くように、その前髪にハサミを入れる。



あなたは静かに目を閉じ、少しだけ僕に体重を預けた。



会えなくなる訳じゃない。



しかし、これまでとは全く違う環境に身を置く不安を取り除いてあげることが出来ない自分が歯がゆかった。



「身体に気をつけて・・・会いに行きますから」



「ばか・・・来れるわけ無いだろ」



彼はそう言って寂しそうに笑った。



ひと通りハサミを入れた彼の髪を撫でる。



今まではサラサラと流れていた髪は、もうすっかりその感触を変えていた。



たったそれだけのことで、彼がもう別の場所へ行ってしまったように感じ、その身体を抱き締めた。



首に残る髪をフッと吹いて払い、そこに口付ける。



「ん・・・」



彼は少し肩を竦め、腰を抱く僕の手に自分の手を重ねた。



片手を解き、彼の胸のタトゥーをなぞる。



僕を振り返る彼と吐息が絡み、その濡れた唇を塞ごうとすると彼は僕の腕から逃れた。



「髪・・・流してくる」



そう言ってシャワールームの扉に手を掛ける彼を再び抱き寄せる。



「ひとりで泣かせたくない」



「チャンミン・・・」



彼の背中のタトゥーに口付ける。



今夜はあなたの身体に僕を刻もう、この消えないタトゥーのように・・・



END
 

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