Singing voice

□heart
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もし姉さんがあの時、あの人と出会わなければ、きっと私は身代わりになることはなかったのだろう。

でも、その出来事が無ければ、私はあの独りぼっちの猫に共感することもなかった。

ネジと知り合うことも…なかったのかもしれない。

世の中上手く出来ているなと、私は自分の部屋で笑った。

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ブランコは揺れる。

ブランコは止まっている。

2つのブランコと、2人の人間。

振り返ってみると、対照的な、二つの影がそこにはあった。

「私の姉は、他の人よりも早く忍になりました。
人よりも早くアカデミーを卒業した姉は、その分周りからの期待を受け続けてきました。
確か…7歳だったはずです。姉さんが、下忍になったのは」

そのとき、あの人は何歳だっけ?

嗚呼、確か14歳だったはずだ。

7歳差の恋愛なんて、と、私も小さい頃はこれを疑った。

いや、相手のほうは恋愛とまでは思っていないかもしれない。

でも、彼女にとって、それは真実の愛だったのだろう。

…なんて、あまり自分ひとりで回想をしていたら、ネジさんが置いてけぼりのままになってしまう。

私は、もう一度、しっかりと口を開いた。

「…このお話は、私がそのはたけカカシさんという方に、直接話を聞いたりして、わかったことなんです。
もしかしたら間違いがあるかもしれません。
私の主観的かつ個人的な妄想も入っているかもしれません」

ネジさんは、返事をしなかった。

そのほうが、私も気が楽なので、有難かった。

月が、また雲に隠れる。

動いていないようで実は動いている雲を、私はブランコを漕ぐのをやめて、眺めながら、口を開いた。
「たまたま、だったみたいです。
姉はたまたま、人なんてほとんど来ないはずの慰霊碑の場所に来てしまった。
そしてそこに、友人を戦争で無くした上忍がいた」

…文系とはいえ、即興で物語風に語る力なんて、私には無い。

どこまで細かく、そして蛇足的にならないように伝えたらいいのか…それがよくわからない。

しかも私は上がり症だ。


授業中に「香月―!」と、先生に指名された瞬間、用意していた答えすらも吹っ飛ぶほどの上がり症。

よほどの自信があるときがないと、ちゃんとはっきりと質問に応えることすらできない。

酷かったときは、出席を取るときの「はい」の一言ですら、緊張してすぐに言えなかったこともある。

そんな私に、果たして正確に話を伝えることが出来るのだろうか?

それでも、私は続ける必要があった。

いや、彼はきっと、私が「もう嫌だ」と言えば、もう何も聞いてこないだろう。

じゃあ、何故私は続ける必要があるのか?
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