桜の記憶
□最善の策
3ページ/4ページ
「さてと、さっさと終わらせますか」
俺は完全に麻斗が気を失ったのを確認すると笑みを浮かべた。体の中では兄達が俺を再度乗っ取ろうと暴れてるし、この体にまとわりついている闇も俺にはかなりキツい。速くしないと。
俺は、鎌の刃を自分に向けると思い切り自分の胸に突き刺す。
手に肉を切り裂く感覚が走り、口から赤い飛沫を吐き出した瞬間、頭の中で断末魔が聞こえた。どうやら、上手くいったらしい。
『お前の体は不老不死のはず。なのになぜ!』
「残念だな。桜花はこういう事が起こると予知した過去の俺が封印される直前に味覚と封印されている間の時間を対価に作ったものだ。
記憶が無かった俺には闇しか斬れなかったが、本来の桜花には斬れないモノはない。そしてその刃にかけたモノを必ず消滅させる。例えそれが不死の体でもどんな悪霊の魂でもだ!!」
俺と共に消滅してもらうぜ。そう言ってニヤリと笑った俺は、桜花で俺と兄達の魂ごと自分の体を切り裂いた。
黒板に爪をたてたのような嫌な声と共に兄達の魂が消滅したのを感じた。途端、ふわりと体が軽くなる。
兄達の魂に俺の魂もほぼ同化してたし、桜花で体を切り裂いた時点で俺の消滅も免れない。
けど俺が消える事で世界を揺るがすようなこの邪気は消えるし、兄達が捕まえてた魂も元に戻る。これで全て終わりだ。
「こんな事なら、最初から俺が消えれば良かったな」
この事を予知してあんな言葉をかけてくれた桜花には悪いけど、そうすればこんなに被害が拡大することが無かった。
やはり、自分はこの世に厄災しか呼ばない存在だったって訳だ。
手を持ち上げてみると、手を通して地面が見えた。もう、ここに入られる時間も残り少ない。
「「雅斗!!」」
軽く苦笑を浮かべた瞬間、十数年聞き慣れた声が響く。俺は声の主――血だらけの鳳凰と麒麟を見て俺は唇を噛み締める。
俺がもう少し速く記憶を取り戻していたら、速く兄達と消えていれば2人だけではなく、麻斗達もこんなには傷つかなかったかもしれない。そう考えると、申し訳なさしか浮かんでこない。
「ごめんな俺のせいで。……麻斗達にもごめんって伝えてくれると嬉しい」
もう、厄災の元凶である俺は消えるから。そう言うと、鳳凰は零れんばかり目を見開いて泣き出してしまう。
「泣くな鳳凰」
「だって、だって、だって〜」
一緒に、ずっと一緒にいようって約束したのに。泣きながら言う鳳凰に俺は目を見開いた。
一緒にいよう。それは鳳凰達が封印された時に彼女が俺に言った言葉。どんなことがあっても一緒にいる。自分たちは家族だから。そう言ってほほ笑んでくれた二人を見て、俺は眠りについた。
あの時は初めて他人と約束したのが嬉しくて夢中で首を縦に振っていた。けど、その約束は今の俺には果たせそうもない。
「ごめん」
たった1つの約束でさえ守れないなんて、俺は家族としても主としても失格だな。