夢への架け橋

□僕の願い
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 とある病院の屋上。そこに僕はいた。


 まるで今の世界を表現するような薄灰色の建物が均等に並ぶ景色。それが緑色のフェンスの先に広がっている。


 田んぼや畑しかない田舎から来た人なら、この景色を凄いと褒め讃えるかもしれない。


 しかし、生まれてから今までこの灰色の世界で過ごしてきた僕には、なんでそんな感動を覚えるのだろうかと首を傾げてしまう。


 そんな日常化してしまっている景色をフェンス越しに見ながら、ふと僕は思った。ここから飛び降りれば、今度こそ死ねるのではないかと。


 実は、僕がこの病院にいるのは自殺を失敗してしまったからだ。今回は今流行りの練炭を使ってみた。が、意識朦朧としてきた時に、ガラス窓を破って野球ボールが入ってきてしまい、そのボールを拾いにきた男子高校生に救急車を呼ばれた結果、自殺未遂に終わってしまったのだ。


 そんな感じで、薬物、リストカット、首吊り、入水など他にも様々なものを試したが、どれも何かしらの邪魔が入って成功した試しがない。


 自殺なんか考えるのを辞めてきちんと生きなさいなんて言われて、運ばれた医師に紹介されたカウンセリングを受けてみたりもした。


 しかし、その時は収まったとしても、予期もしないときに突然、死にたいと思うのだ。無意識にインターネットで自殺サイトを訪問していた事なんか、何回もある。


 僕自身は生に執着していない。むしろ、死んだ方が色々と利益が起きるんじゃいかと最近は考えるようになっている。


 だって、未来なんて不明瞭なものを想像しただけで、僕は恐ろしくてたまらなくなる。


 何時、自分はどうなって、何をして、どんな風に死んでいくのか。それが全く見えてこない。


 それなのに生きる理由なんてあるのだろうか? 僕が出した答えはNOだ。いっそのこと、そんな何時来るか分からないものに不安を抱いているくらいなら、自分でそれを決めてしまった方が絶対に良い。僕はそう思う。


「よし」


 僕は周りを見回して人が居ないのを確認すると、フェンスに手をかける。最近運動してないせいか、ずっこけたりしたが、なんとかフェンスの頂上まで来れた。


 フェンスの頂上から見る景色は、下から見るのとかなり違う。阻害するものがないせいか、いつもよりも空が近いせいか。薄汚いと思っていた景色が、少しだけ綺麗に見えた。


「これなら、最初から飛び降り自殺にすれば良かったな」


 飛び降り自殺って死体がエグいし、浮遊感が気持ち悪そうだから出来ればやりたくないなと思っていたけど、こんな絶景を見れるなら、悪いものじゃないかもしれない。


「ねぇ、なにしてんの?」


「っ!」



 
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