夢への架け橋
□アサガオと失恋
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アサガオが作るアーチが有名なこの場所に、私は来ていた。目の前には、私の大好きな村田先輩。たった今、私は先輩に告白して振られた。
この思いを自覚した途端、こうなるのは分かっていた。けど、この思いに蓋をする事は、私には出来なかった。いや、日に日に溢れ出す先輩への気持ちを抑える方法が、分からなかっただけかもしれない。
先輩には、学年が違うせいで、所属している生徒会や、廊下ですれ違う時にしか会えなかった。けど、先輩に出会ってから、色褪せていた世界が輝いて見えるようになった。
こんなにも、世界が色鮮やかだったなんて教えてくれたのは先輩で。こんなにも、人に恋をするのは素晴らしいって教えてくれたのも先輩だった。
だからこそ、先輩が学校を去る前に伝えておきたかった。こんな気持ちを教えてくれてありがとうって。
そう、これは、私なりのけじめ。
「ありがとうございました」
「いえ、私こそ気持ちにお答えできずに申し訳ありませんでした」
「いえ、良いんです。受験大変なのに、時間を取らせてしまって、こちらこそすみません」
これから先輩は、本格的に受験勉強へと入る。夏が終われば、3年生は自由登校だ。先輩とはさらに会えなくなってしまうだろう。
けど、私はちっとも寂しくなかった。これから先輩は、自分の描く未来を掴むために頑張るんだ。それは、とても喜ばしいし事だし、応援したいと思う。
「……珍しいですね」
「え?」
「こんな事を言うのは難ですが、私はこれまでにも、何人かの女性に告白されたことがあり、断っています。泣かしてしまった事はありましたが、笑った方は葉月君が初めてです」
「確かに、大抵の人はそうかもしれません。けど、私はこの恋が散ってしまった事を、全く後悔していません。むしろ、晴れ晴れした気分です」
これでやっと、自分の中にあった溢れるような気持ちに整理がついた。
「けど、先輩。私、諦めた訳じゃないですからね」
私は、たった今、先輩に振られた。けど、それでもまだ、目の前の彼が好きな自分がいる。
「覚悟してて下さい。絶対に振り向かせてみせますから」
「それは、楽しみですね」
ここにきて初めて見た先輩の笑顔に、ドキリと高鳴る心臓。
嗚呼、やっぱり私は、先輩が好きだ。
「よし、まずはじめは、先輩と同じ学校に入らなければ!」
「かなり偏差値高いですけど頑張って下さい」
「う゛、努力します」
「葉月君なら、きっと合格できますよ」
「はい。またよろしくお願いします」
「待ってますよ」
そう言って、先輩は去っていってしまった。
「……」
この恋は、散ってしまった。それは、どんな事をしたって変わらない。けど、散ってもなお、壊れない思いがある。だから、泣いてなんかいられない。先輩も言ってくれた。待っているよ、と。
それが、後輩とかそういうのでも構わない。その言葉こそが、私にとって確かな繋がりだから。
「待っていて下さい。村田先輩」
見上げた先には、生き生きと葉を伸ばし、花を咲かすアサガオと綺麗な青空が広がっていた。