真紅色の育成日記
□知らない世界
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(アッシュ視点)
「う……ん」
俺は自分の声に気付き、閉じていた目を開けた。そこに広がっていたのは、見慣れぬ景色。そのことに少し戸惑ったが、昨日の事と夢に出てきたローレライの話を思い出し、落ち着きを取り戻す。
「別の世界……か」
確かに、ここは俺のいた世界とは勝手が違う。それに、初めて会ったこちらの世界の人間である奏は俺の世界では一般常識であることを全く知らなかった。けど、違う世界と考えると全て合点がいく。
「俺は大丈夫なのだろうか」
ローレライは必ず迎えに来ると言っていたが何時来るかまでは言っていなかった。それに奏。一般人のようだが、俺の殺気にピクリともしなかった。まだ信用には値しない人物。
「けど、今の俺には奏しかいない」
自分に武器を向けてきた、何処ぞの馬の骨か分からない俺を住まわせてくれると言った可笑しな奴。けど、あの言葉に嘘偽りが無いと俺は思っている。
「あ、アッシュ。起きた?」
「奏……」
ベッドに座り込んでいると、お玉を片手にひょこりと奏が顔を出す。そう言えば、隣の部屋からいい匂いが漂ってくる。
「朝食できたから来いよ」
「あ、あぁ」
奏の後を追って部屋を出るとその部屋の中央にある机の上に朝食らしき物がきちんと二人分乗っていた。
「昨日、夕飯食べてないから腹減ってるだろ? 有り合わせで悪いけど」
「いや、迷惑はかけられない」
「人は食べなきゃ生きていけないんだから遠慮せずに食べろ。毒なんか入ってないから」
ほらほらと言われ椅子に座らせられる。仄かに湯気を立てている食べ物を目の前にしたせいか、空腹感と共に腹の虫がぐうと鳴いた。
「いただきます……」
「どうぞ」
恐る恐るパンを手に取り、口に入れる。瞬間、目を見開いた。
「おいしい……」
「だろ。俺のバイト先のパンなんだけど、これが最高に美味いんだよ」
そう言って笑みを浮かべる奏。よっぽど俺がパンをおいしいと言ったのが嬉しかったのだろう。次から次へとパンが出てくるし、説明もすごい。
ご飯を食べながら奏の話を聞いていると、ふと時計を見た奏があっ、と声をあげる。
「あ、やべもうこんな時間じゃん。ごめんアッシュ俺学校に行かなきゃならないんだ。昼食はキッチンに置いといたから適当に食べてといて。夕方には帰ってくるから。
あと、出来れば外には出るな。まだ知らないことの方が多くて危ないだろうし」
「あの!」
「どうした?」
「俺、本当に此処にいて良いのか? ローレライから聞いただろ。俺はこの世界の人間じゃないんだぞ!」
そう言って、ぎゅっと目をつぶる。正直、奏に否定されたらどうしようと不安でいっぱいだ。
だって、自分は赤の他人だけではなく、他の世界からきたなんていう異分子だ。そんな俺が本当に此処にいて良いのだろうか? そんな思いが頭の中から離れない。
長くも短くも感じる沈黙の中。先に動いたのは奏だった。