真紅色の育成日記
□罪人(前編)
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――夢を見た。幼い頃の夢。
いつもと変わらない場所。そこは真っ赤に染まっていた。
白で統一された綺麗な部屋だった筈なのに、それを塗りつぶすかのように真っ赤に全てが染まっている。その色が強烈過ぎたのか、幼かった俺は軽く目眩を起こしていた。
「やっと帰ってきましたか」
いきなり聞こえてきた声に、俺は驚きながらもそちらを向く。そこには、黒い服を真っ赤に染めた男がいた。
男は動かない俺に近付くと、まじまじと俺を見つめる。そして、笑みを浮かべた。歪みきった死神の笑みを。
「成る程。これは上が欲しがる訳だ」
「……え?」
何のことだ? 上が俺を欲しがる? なんで?
呆然と、ただ呆然と自分を眺めてくる俺に男は笑みを消し、俺の目線にあうようにしゃがみ込む。その瞳に浮かんでいたのは、哀れみと微かな期待。
「君はギルティに選ばれてしまったんですよ。法で裁けない悪人に罰をくだす、赦される罪人に」
「つみ……びと?」
「そう、君は今日から罪人になる。私のような罪人に」
そのためには全てを失わなければいけない。大切な物、人、場所を全て。
罪人以外の場所から逃げ出せないように。
「今君が持ってるモノは私が全て排除しました。この家も時期に無くなります。そして君は、自分の名前すら失う」
「……」
「けど、これから生きていけば、君はまた居場所を手に入れるかもしれません。罪人以外の居場所を」
男はそう言うと、俺の頬を撫でる。べったりと血が付いた手のひらで。
「それが君を罪人でいらせるのに邪魔だと私が判断したら……私はそれを君の目の前で消し去ります」
罪人には、大切なものも居場所もいらない。全てを捧げ、ギルティの駒として動く。それが俺に突き付けられた現実。
「もう、君は逃げられない」
全てを失い、目の前に与えられたものをただ受け入れ、生きていく。幼な過ぎた俺にはそれしか出来なかった。
例え、それが自分と同じ者を生むことになったとしても。
それが、俺の罪の始まり。