桜の記憶

□紅い右目
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「雅斗です。入ります」


 客室の前に来た俺はそう断りを入れた後、すっと襖を開ける。中にいた麻斗達は俺を見た途端、驚きの声を上げた。


「雅斗、起きて大丈夫なの? それよりもその右目」


「大丈夫だから落ち着け麻斗」


 麻斗が心配そうな声をあげる事に苦笑しながら俺は前を向いて頭を下げた。


「先程は迷惑をかけてすいませんでした。織也さんにも迷惑をかけてしまったみたいですし」


「別に迷惑なんて思ってない。それに雅斗は俺の子だ。親が子を心配するのは当たり前だろ」


 さも当たり前のように言ってくれる織也さんの優しさに俺は泣きそうになった。


 けど、俺の正体を織也さんが知った時、また同じ言葉を俺にかけてくれるだろうかという不安も少なからず生まれたのは嘘ではない。


 けど、思い出した今、彼らには真実を伝えなければならない。そう思った俺はぐっと唇をかみ締めるとゆっくりと口を開く。


「俺には10歳までの名前以外の記憶がありませんでした。気づいたらこの屋敷にいて、成り行きで織也さんの世話になることになりました。
 そして12歳のときに篤志や征一郎さんの追っていた事件に巻き込まれて……その後、死神代行という役職に就き、今まで生きた人間ながら冥府の仕事の手伝いをしていました」


「え?」


 俺の言葉に麻斗と密が目を丸くする。普通の一般人だと思っていた俺が実は死神のことを知っていましたっていってるんだから普通は驚くよな。


 俺は彼らの視線を気にせずに言葉を続ける。


「で、さっき窮奇に逢った時に俺、思い出したんです。自分が何者か」


俺はそっと自分の右目に触った後、苦笑をしながら言った。


「俺の正体はあるクローンを媒体に作られた改良版のクローン。禁忌の血に濡れた紅い瞳を持つ、人が生んでしまった不老不死の鬼であり……闇の住人と呼ばれる者です」


 
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