桜の記憶
□思い出の桜
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思い出の桜
京都の一角。普通の人には入れない場所にそれはあった。
先まで見えない草原の真ん中に小高い丘があり、その頂上には鼓鶴楼の狂わせ桜の親である桜が満開に咲き誇り花弁を散らしている。
ここは藤貴が俺の封印する為だけに作った異空間。そのせいか入った瞬間、懐かしい気分がした。
「なんか、異空間って気がしないね」
麻斗が目を丸くしながら辺りを見回しているのを見て俺は苦笑を浮かべる。
「これは藤貴が作った実幻想って言われるもんだよ。藤貴はこういうの得意だったから」
「実幻想ってなに?」
「幻を現実に出来る能力。俺が知ってる限り、実幻想で藤貴の右に出る者はいないと思う」
「私の曾祖父の弟はそんなに凄い術者だったんですか」
確かにこれは凄いですね。と言いながら一貴さんは風に揺れている草に触る。
草はそのあたりに生えているモノと変わらず、瑞々しさを一貴さんの手に伝えたらしくて、彼は目を丸くしていた。
こんな一貴さんの顔、めったに見られないなと思っているとざっと風が吹く。
舞い上がる花弁。揺れる草木。その中心に俺の知っている人物が立っていた。
俺は笑みを浮かべながら彼の名前を呼んだ。
「久し振りだな……藤貴」