桜の記憶

□砕けた氷
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「確かに他の方はそうでしたね。けど、私は一度もそんな事を考えたことはありませんよ」


「じゃあなんで」


「……あなたに幸せになって欲しかったからです」


 藤貴の言葉に目を見開いた。俺に幸せになって欲しかった? どういう事だ?


 混乱している俺の頭を撫でながら彼は話を続ける。


「私はただ、雪貴を負かしてやりたかっただけという私情な理由で君を創ってしまった。初めて君が私の名前を呼んでくれた時、自分が大罪を犯したと気付きました。そして、その時、自分の罪で創ってしまったこの子をどんな形でも良いから幸せにしてあげようと誓いました」


「しかし、現実はそう甘く無かった。私と一緒に研究をしていた者が君を道具として使い始めたのです。その人達は私よりも上司の人物で当時の私には何も出来ませんでした」


「けれど、日に日に感情を失っていくあなたの姿に私は耐えられなかった。だから私はあの事件を理由に、私が創った人工神である鳳凰と麒麟と共に封印しました。君を知る者がいない時代なら君は幸せに暮らせると思ったから」


 そこで、言葉を止めた藤貴は一瞬、辛そうな表情を浮かべた後、言葉を続ける。


「しかし、私のようにあいつもまたこちらの世界に来ていました。しかもあいつはあなたに記憶の改ざんを施していた。このままじゃあなたがあいつに悪用されてしまう。だから歩君を誘拐し、記憶を取り戻させようとしました」


「……」


 知らなかった。そんな事を藤貴が思ってたなんて。それなのに俺は藤貴を犯人扱いして。


「最悪だな……俺は」


「いえ、悪いのは私です。鳳凰と麒麟にも本当にすまなかったと言っといて下さい。許してくれとは言いません。どうか私なんかの事は忘れて今度こそ幸せになって下さい」


「ふじ……たか?」


「あなたの事を心の底から愛しています。……さようなら。雅斗」


 藤貴は笑みを浮かべた瞬間、銀色の光となって姿を消した。きらきらと光る光に目を見開いた時、俺はある記憶を思い出す。



 
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