桜の記憶
□最善の策
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「うっ……」
ガクリと力を失い、都筑は自らの血溜まりの上に倒れた。
視線を後ろに動かすと、自分と同じように血溜まりの中で気を失っている密達が映る。
なんとか彼らだけは守らないと。震える足で立とうとしたが、上手く力が入らなかった。どうやら血を流し過ぎたらしい。
そんな都筑の前に血塗れた刀を持った雅斗の姿。その唇には、三日月のような笑みが浮かんでいた。
『じゃあね。お兄さん』
にやりと笑い大きく振り上げた刀が都筑に刺さろうとした瞬間、彼は目を見開き、呻きだした。
何かと思い、都筑が呆然とその光景を見ていると、雅斗の口から今までとは違う声が響く。
「なに勝手に俺の体を使ってんだよ。兄さん達」
『雅斗!? な、何故だ! お前はあの時、闇に堕ちて僕達と同化した筈なのに……』
「残念だな。俺の魂は変に頑丈なんで、すぐには消えることは無いんだよ」
そう言って笑みを浮かべた雅斗の表情はいつもの彼のものだった。雅斗は消えた訳ではなかったんだ。そう思った瞬間、都筑の頬を涙が伝う。
良かった。本当に良かった。
そんな都筑の前にしゃがみ込んだ雅斗は、スッと都筑の涙を拭うと彼の目に自分の手を被せる。
「ごめん。麻斗。もう終わるから、もう迷惑はかけないから」
少しの間、眠ってて。その言葉が聞こえた瞬間、目蓋が勝手に落ちていく。
寝ちゃだめだ。寝たら、その間に何か大切なモノを失ってしまう気がして。それが怖くて必死に目蓋を押し上げようとするけど、自分の意志とは関係なしに目蓋は落ちていく。
「さようなら。麻斗。あんたの弟に産まれることができて本当に良かった」
その声を聞いた瞬間、都筑は完全に意識を失った。