桜の記憶

□エピローグ
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エピローグ







 雅斗が消えて、半年が経った。


 あの後、都筑達が目を覚ました時には全て終わっていた。


 あの禍々しい気配を放っていた柩も消え、兄達の気配はない。それと同時に雅斗や鳳凰達の姿も見当たらない。


 否、彼等の気配がどこにも感じられない。


 ――どこにも。


 それから数日後。都筑達は雅斗達は兄達の魂と柩を消滅させるために自身を道連れにした事を篤志の口から聞かされた。どうやら、織也の家から麒麟が書き残したらしい手紙が出てきたらしい。


 この事件の真相ともし、雅斗が消滅する道を選んだ場合は自分も彼と共に消えると書かれた手紙が。


 それを聞いた都筑は愕然とした。麒麟の書き方だと雅斗には消滅する以外の道もあったという事だ。


 けど、それを自分達は潰してしまった。


 大切なものを失う苦しさ、悲しさは知っていた筈なのに――。


 その後、人数不足及び違反を犯したということで呪詛課が無くなり、召喚課の方に篤志が人事移動してきたり(大林課長は退職した)事件の処理をしたりと大変だったが、やっと召喚課も落ち着きを取り戻しつつあった。


「雅斗……」


 今、都筑は京都のとある丘に来ていた。


 そこは、雅斗が封印しされていた場所に繋がる入口。丘の上には枯れた桜の木がある。


 季節外れの桜として有名だったらしいのが、つい最近枯れてしまったと近くの人が言っていた。


 あの空間が崩れたせいでもあるだろう。けどそれだけではない。きっと。


 都筑は手に持っていた花束を桜の下に置くと空を見上げる。


 空は雲一つない晴天できっとこの桜が咲いていたら一枚の絵のようになっていただろう。


 ふと、都筑は雅斗との約束を思い出した。


『麻斗! 俺の取って置きのお花見スポット教えてやるよ。だから、今度花見に行こう。みんなでさ!!』


「俺、楽しみにしてたんだよ。雅斗が言ってた花見」


 冥府では一年中桜を見ることが出来るから正直、桜には見飽きている。


 けど、雅斗達との花見はとても楽しいものになると思っていた。


 桜の木の下で雅斗の作った美味しい料理を食べたり、お酒を飲んだり、どんちゃん騒ぎをして笑いあったり。


 そしたら、見飽きた桜もたまには良いものだなって思えたかもしれないのに。


「なんで、いないんだよ……雅斗」


 数ヶ月。雅斗と過ごしたのは自分の生きている時間にすればほんの数瞬に近い。


 けど、雅斗の存在は都筑の中でとても大きくなっていた。


 心にぽっかりと穴が空くほどに。


「雅斗……雅斗」


 涙が溢れて止まらない。


 とても、苦しくて、悲しくて、悔して。それが体の中でぐちゃぐちゃになって自分が何を思っているか余計分からなくなる。


 けど、涙は止まらなくて――。


「雅斗……」


 会いたい。もう一度、一目でも良いから会いたい。


 会って、ありがとうって。ごめんねって言いたい。俺の本当の気持ちを伝えたい。


 けど、それを叶える術を持たないことが悔しい。


 そっと手を空に伸ばす。だが、その手は何も掴むことなく虚しく空を切るだけ。


「雅斗……」


 それでも手を伸ばせば雅斗が触れてくれそうな気がして必死に手を伸ばす。


 近くに雅斗がいる。そう思えてならなかったから。


「雅斗!」


「……なに?」


 
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