桜の記憶
□エピローグ
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「え?」
頭上からいきなり聞こえてきた返事に都筑は目を丸くし、頭上を見上げる。そこには、枯れた桜の木の枝に腰を掛け、笑みを浮かべた雅斗の姿があった。
自分は都合の良い幻を見ているのだろうか……?
今、自分が見ている光景が信じられず、呆然としていると枝から降りてきた雅斗が不思議そうに首を傾げながら、都筑の前でひらひらと手を振る。
「麻斗〜? 麻斗兄さ〜ん。応答お願いします」
「本当に……雅斗?」
都筑は恐る恐る雅斗の頬に手を伸ばした。本当に雅斗がいるか不安でたまらなかったから。
手に触れたのはしっかりとした肌の感触。それを確かめた瞬間、止まっていた涙が再度、溢れ出すのを感じた。
「本当に雅斗だ!」
「麻斗、急に抱きつくな!! 苦しい!」
かばっと都筑が雅斗に抱きつくと慌てたような声が下から聞こえてきた。だが、都筑は余計に腕に力を入れる。
雅斗が帰って来てくれたのだ。それがとても嬉しくて、けどまた消えてしまうんじゃないかって怖くて。腕の力を緩めることが出来なかった。
「そう言えば、どうして雅斗がここに? 消えたんじゃなかったの?」
そうだ。雅斗は消えたと聞いた。それを突きつけるように今まで雅斗の魂を感じる事が出来なかった。
なのになんで雅斗はここにいるんだ?
訊ねると雅斗は言いずらそうに視線を逸らす。
「実はあの後、閻魔様が俺達の所に来て『死神としてお前らを戻す』って死神にさせられたんだ。
けど俺達は桜花で自分の体を切り裂いて消滅したから、この世界にかすかな魂の欠片しか残ってないって状態でさ。そこから体を形成するのが普通よりも時間がかかっちゃって」
そう言ってはははと笑う雅斗に都筑は溜め息を吐く。
確かにあれは大変だったと思うが、閻魔も閻魔だ。戻す気があったならもう少し速く雅斗戻してくれれば良かったのに。
自分には雅斗に一杯話したいことがあるのだから。
けど、今はそれよりも最初に伝えたい言葉がある。
都筑は笑みを浮かべ、その言葉を音にのせる。
「――おかえり。雅斗」
目を見開いた後、雅斗はニカリと笑った。
「ただいま。麻斗」
ざっと風が吹き、草木を揺らす。
その風に乗って都筑が持ってきた花束の中にあった桜の花が青い空へと舞い上がっていった。
*完*