桜の記憶
□始まり
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始まり
「――っでさぁそれが化け物のせいじゃないかって言われてるんだとよ。って、もしもし雅斗くんき〜いてますか?」
教室。親友であり幼なじみの中嶋歩の声に夢へと向かいつつあった俺の思考が一気に引き戻される。
パチパチと数回まばたきした後、俺は首を傾げた。
「……なんの話だっけ?」
「たくっ、聞いてなかなったのかよ」
「すまん。最近、寝不足気味で……それでなんだっけ」
歩は溜め息をついた後、話し始める。
「ほら、この高校の関係者が次々襲われてる事件のこと。もう意識不明と行方不明を合わせて30人になったんだとよ。それでさ、その犯人が化け物じゃないかって噂があるんだって」
「化け物? そんなのいるわけねぇじゃん」
「いや、現に黒い化け物に襲わてる奴を見たって言う人がいるし、警察もほぼお手上げ状態。そう考えると、化け物って言う線も捨てられねぇだろ」
歩の演説めいた話に、俺はため息を付いた。
大体、近くにいたなら警察呼べっつうの。
「……アホらし、それよりチャイム鳴ってる。席付かないと先生に怒られっぞ」
「げっ!? やば」
チャイムの音を聞いて、歩は慌てて席に戻っていった。
「化け物か。場合によっては呪詛課も動くのかな? と、すると俺の睡眠時間また減るじゃねぇかよ……」
誰に言うわけでもなく、俺はぼそりと呟いた。
俺の名前は、都筑雅斗。京都にある高校に通っている2年生で、何処にでもいる普通の少年だ。
……って、言えたらとてつもなく嬉しいんだけど、生憎普通の少年じゃない。
冥府にある十王庁の一つ、呪詛課に所属している。某漫画風に言うと死神代行。嬉しくないけど。
事の発端は、12歳の時に巻き込まれた事件で呪詛課の課長。大林光彦に出逢ってしまった事だ。
どうやら俺は昔、彼らの所で働くと約束したらしい。
けど、俺には10歳以前の記憶がない。(何故か、名前だけは覚えていたけど……)
だから最初は断った。俺はそんなの知らないって言って。
そしたら課長の奴、冥府に保管してあった邪気の詰まった勾玉を持ってきて、
「お前が断るならこの勾玉に入っている邪気をばらまく」
って言ってきやがった。あの時は開いた口が閉じられなかったのを今も覚えている……。
まぁ、そんなこんなで最終的に俺が折れて、今現在は学校と呪詛課の仕事を両立しながら頑張っている。
後で化け物の事について課長に聞いてみるか思いつつ、俺は授業をサボるのであった。