桜の記憶
□夢
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◇◇◇
「なぁ、都筑」
雅斗が帰った後、部屋に入った密はまだ酔っぱらってるらしい都筑を叩き起こすと話しかけた。その声はどこか硬い。
「なんだ?」
「都筑雅斗はこの一連騒動に関わってるんじゃないか?」
「え? なんで?」
そう言いながら都筑は首を傾げた。雅斗は都筑から見れば、何処にでもいそうな少年のように見えた。密には違うように映ったのだろうか?
「俺はあいつに直に触れ合ったのに感情が全く読めなかった。普通の一般人なら、あそこまで感情を読めないのはおかしいだろ」
「たしかに……明日から彼を監視した方が良いかもしれないね」
「そうだな。……そういえば都筑。もう一つ気になる事があるんだけど」
「どうした?」
「俺達が一番最初に壇上に上がった時。都筑雅斗が俺に話しかけてきたんだけど。おかしいんだ」
「なにが?」
密はなんとも言えない感情を整理しつつ呟いた。
「その……なんというか。俺に謝ってきたんだ」
「謝る?」
都筑は首を傾げた。雅斗と密はあの時初めて会ったのだ。なのになんで雅斗が密に謝らないといけないのだろうか?
「なんて謝ってきたんだ?」
「その……助けられなくてごめんって」
「助ける? 密。都筑に会ったことがあるのか?」
「いや、初めての筈なんだけど……どこかで会ったことがあるかもしれない」
「ひ〜そか。言ってる事が矛盾してるよ〜」
「しょうがないだろ!! 覚えてないんだから」
がぉっと吠えた密に都筑は思いっきり萎縮してしまう。
紫の瞳に涙を溜めてる都筑を見て密は固まってしまった。
(ヤバい。キツく言い過ぎた)
「……ごめん」
「いや、密のせいじゃないよ」
慌てている都筑を見て、密はふっと笑みを浮かべる。
ころころと変わる都筑の表情はもやもやした心を一瞬で和やかになってしまう。
「それよりさ、何か食べない?」
「さっき歓迎会で食べただろ」
「そんなのもう消化されちゃったよ〜。ね、なんか食べよ。俺、作るから」
「ちょっ待て!! 俺が作るから都筑はそこに座ってろ!!」
台所に行こうとする都筑を慌てて引き止める密なのでした。