桜の記憶

□みかん
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「いった〜」


 呆然と段ボール箱を見ていると近くから声が聞こえた。そっちの方向を見ると、頭を抱えた担任の姿。どうやら俺と追突事故を起こしたのは、担任だったらしい。


 ゆっくりと立ち上がった俺は、担任の前に立つ。


「せ〜んせ♪」


「あ、都筑。ごめん。急いでたらぶつかっちゃって」


「いや、良いんです。俺は……ね」


「? うまく分からないけど、ごめん。先急ぐから」


 そう言って俺の横を通り過ぎようとする担任の腕を、俺はがっちり掴んだ。それはもう、逃げられないように。


「都筑……?」


「先生。俺は、「俺は良いんです」って言いましたよね」


「うん」


「けど、俺じゃない奴が良くないんです」


「都筑以外に誰かいたの?」


「はい」


 そう言って俺は無惨にも潰れた段ボールを担任の前にドンと置く。


「先生。これなんだか分かりますか?」


「だ、段ボール箱……だよね?」


「それが、普通の段ボール箱がじゃないんです」


 そう言って俺は段ボール箱を開ける。中は予想通り哀れな姿になったみかん達が沢山入っていた。うわぁ、どうりで重いわけだ。


 担任は段ボール箱の中のみかんを見た途端、みるみる顔が青くなる。

 多分、ヤバいと思ったんだろうなぁ。恐る恐る俺に訊ねてきた。


「……もしかして、都筑がこれ持ってきたの?」


「はい、家から一生懸命。けど、先生のせいでクラスのみんなに渡せなくなっちゃいました」

 ニコリ。俺は笑う。漫画の世界だったら今、俺の背後には「ゴゴゴ」という効果音が付いてるだろう。


「先生……この世で一番怖い怨みって何か知ってますか?」


「な、何かな?」


「く・い・も・の・の・怨みです♪」


 そう言いながら俺は右手に担任の襟首、左手に段ボール箱を持つ。


「と、いう事で今から先生にはみかん達の怨念に取り付かれないようにこれをす・べ・て食べて貰いますから」


「え!? 俺、仕事が……「何か言いましたか?」


 殺気を出しながら担任を見ると、担任は目を潤ませながら俺を上目遣いで見上げていた。


 ウルウル光線で俺を落とす気か。だが、そんなもんみかんの怨念背負った俺には通用しない!!


「無駄ですよ。先生」


「う〜。都筑が巽に見える〜」

「俺とあの秘書さんは似てません。ほら、先生行きますよ」


「う〜」

 ズルズルと担任を引きずりながら俺は内心冷や汗をかく。


 ヤバい。俺、巽さんの事知らない事になってんのに思い切り「秘書さん」って言っちゃった。


 ちらっと担任を見たが、鈍感なのか彼は気付いていないらしい。取り合えずセーフだろう。

 今度から気をつけようと思いながら、俺はある場所に先生を引きずって行くのであった。
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