真紅色の育成日記
□罪人(前編)
2ページ/4ページ
「――はっ!」
ガバッと俺は起き上がった。どくどくと心臓が早鐘を打ち、冬で寒いはずなのに嫌な汗が全身から吹き出しているのか、寝間着が体に貼り付いて気持ち悪い。
「……また、あの夢か」
最近は見ていなかったのに、なんで急に。そう思いながら、俺は汗で湿っている髪を掻き上げる。
「取りあえず、シャワー浴びるか」
多分、もう夜明けまで寝れないとおもうが、このままでいるのは気持ち悪い。ごぞごぞと布団から這い出した俺は、着替えとタオルを片手に部屋を出る。
「……全て奪う、か」
シャワーを浴びながらあいつが言ってた事を呟く。今まで考えていなかったが、あいつにアッシュが見付かったらどうなるのだろうか。
「なんか、殺されそうな気がするな」
あいつならアッシュを殺しかねない。今は外国に行っているが、もうすぐ帰ってくるはずだ。
そしたら、俺も仕事に入らなきゃいけない。その姿をアッシュに見られるのは嫌だな。
「柏原家に預けるか」
あそこなら色々と安全だし、俺の本当の仕事をアッシュに知られなくてすむ。
「正直、俺が誰かと同居してること事態おかしいんだよな」
この前、あんな事を柏原さんに言ったのに、情けない。
はぁーと一度息を吐き出し、シャワーを止め、浴室を出るとドンと何かがぶつかってきた。
いきなりだったせいか、軽く崩れた体勢を整え、下を見るとアッシュが俺の腰にくっついてた。
「ア、アッシュ。どうした?」
「……」
「お〜い。アッシュ〜」
「……」
「弱ったな」
まだ体を拭いてなかったら、このままだとアッシュの寝間着がびしょ濡れになってしまう。
どうしようか、と悩んでいるとぼそりとアッシュが呟いた。
「夢を見た」
「……夢? 怖い夢か?」
ならこの行動も分かる。そういう類の夢を見ると他人が恋しくなるし。
案の定、アッシュは頷いた。しかし、その後に続いて出てきた言葉に俺は目を丸くする。
「奏が、俺を置いてどっかに行ってしまう夢を見た。俺、何度も奏の名前を呼んだのに。一生懸命追いかけようしたのに、奏は俺の方を振り向かずに闇の中に消えていった。
起きてから怖くて、すぐに奏を探したけど、部屋にいなくて……本当に俺を置いて消えちゃったのかと思った」
「大丈夫。俺は此処にいるから」
だから、泣かないで欲しい。アッシュの涙は、俺の心をきつく締め付ける。
「俺は此処にいる。此処にいるから」
アッシュの寝間着が濡れるのも構わずに、俺はアッシュを抱き締めた。少し湯冷めしてしまった体には、アッシュの体温が心地良い。
この温もりを手放したくないと思う。けど、心の奥でこれ以上、情を移すと取り返しのつかない事になるぞと警戒の言葉を発している自分もいる。
この一時だけで良いからこの温もりと一緒にいることを許して欲しい。そう思ってしまうのは、罪な事なのだろうか?