捧げ物

□ねえ、きみのしあわせを願っているとしたら
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「うさぎみたい」


「は?」






パソコンに向かうその背中を見ていたら、ポツリ、本音が漏れた。
臨也くんは怪訝そうに綺麗な顔を歪め、ソファの背もたれにその背を預けながらこちらへ振り向く。




ああ、ほら。一気に不整脈になる。あなたがその瞳で、わたしを見るから。






「時々君は、果てしなく妙なコトを言うよねぇ」


「えぇー、臨也くんはうさぎだよ」





本当は寂しいのに、嫌われるのが怖いからわざと嫌われちゃうの。あ、あとたまに目が赤いところとか。





何の感情も見せない笑みで、臨也くんは最後までわたしの話を聞いていた。
「おいで」。腕を広げてわたしを呼ぶ。
素直に臨也くんに近づいてその腕の中に飛び込むと、臨也くんは優しく髪を撫でてくれた。






「寂しくならないように、俺がたくさんの友達に囲まれていたら幸せかもしれないね。そしたら年中無休、そいつらは俺の人間観察のモルモットだ」


「うわぁ、最悪」






くすくすと笑えば、臨也くんの腕がぎゅっとわたしを抱きしめた。
肩に乗る重み息と、顔にかかるサラサラの黒髪に逐一心臓が跳ねる。






「俺は別に、人間観察が出来れば幸せなんだけどね」






"あと、君がいれば。"ついでと付け足したように言われた甘い言葉は、"ついで"が邪魔をして一切の甘さを孕んでいなかった。
自分と同じ香りのする頭に顔を埋める。






「…でもわたしは臨也くんの友達にはなれないよ」






わたしは、貴方の恋人だから。
「わかってるよ」。言葉の意味を含めて、短く笑った貴方が無言で伝える。
なんだかそれがすごく寂しくて、泣きたくなった。




この人にとって、幸せとはなんなのだろう。
たくさんの友達に囲まれて暮らすことではないことなんてわかってる。
彼にとっての幸せは、人間の多種多様な無様に揺れ動く心と動きを見続け、その掌で弄ぶことなのだ。




嫌われる、なんてわかってるクセに。
掲げる人間愛は恐怖か本心か。




悪役の貴方は寂しがりやだから、どうか寂しくないように。
せめてわたしだけは、貴方の側に居てあげるの。




ねえ、きみのしあわせを願っているとしたら




世界中の人々は、きっとわたしを恨むだろうね。




END


企画サイト「指先」さま提出。

2010年7月6日カズハラより。

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