キリ番リクエスト
□三っちゃんと俺‐80000Hit‐
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俺が初めて三っちゃんを見たのは、まだ高校に入って間もない頃だった。
廊下ですれ違った三っちゃんは自信たっぷりの笑顔でキラキラ輝いて、大勢の取り巻きに持て囃されていた。
すぐに、自分とは住んでいる世界が違う人間なのだと思った。
俺の周りといえばその頃から、喧嘩好きの胡散臭い奴ばかりが集まっていた。
だから次に三っちゃんを見た時、それがあの時の同一人物だとは全く気付かなかった。
「徳ちゃん、あそこ…
誰か、ぶっ倒れてるぜ」
仲間が指差す路地裏を見ると確かに人が倒れている。
高校生になって初めての夏休み。
特にやることもない俺たちは毎日、陽が傾く頃にポツリポツリ集まっては一端のヤンキー気取りで繁華街を闊歩していた。
いつもなら面倒事には首を突っ込まない俺だが
どういうわけか、その時は倒れている奴が酷く気に掛かり
仲間の制止を振り切って、仰向けに伸びている男に近づいた。
傍に松葉杖が2本放り投げられていて、そのうちの1本は折れていた。
…轢き逃げ
俺は咄嗟にそう思ったが、それがすぐに間違いだと気付いた。
おそらく、大勢の人間に袋叩きにあったのだろう。
男の状況を見れば一目瞭然だった。
自分とタメくらいか…
「大丈夫か」と声を掛けようとして、俺は言葉を飲み込んだ。
男は泣いていた。
微動だもせずに、ただ膨れ上がった目蓋の下から涙だけが止めど無く流れていた。
不気味がる仲間を先に行かせた後、俺は気を取り直し声を掛けた。
このまま放っては置けない気がした。
「大丈夫か」
僅かに反応したようだったが、やはり男は仰向けのまま動こうとしない。
仕方なく、肩に手を掛けた途端に振り払われた。
「ッッ!!…なんだテメー」
俺は反射的に襟首を掴み、グィと相手の頭を起こして睨み付けた。
瞬間、全身に鳥肌が立つ。
俺は16年間生きて、これほど絶望的な人間を見た事がなかった。
「……悪ぃな
放っといてくれねぇか…
…もう、俺の居場所は
……どこにもねぇんだ」
襟首を掴む俺の手に力なく乗せた男の手は、夏だというのに氷のように冷たかった。
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