短編!

□嘘吐きと罪人
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うそばっかり、嘘ばっかり。
君が好きだ、って言って笑う。俺は世界一の嘘吐きだ。

→嘘吐きな男のお話


俺には恋人が居る。恋人、といっても親が勝手に決めた婚約者なんだけども。
俺は、本当は好きな人が居る。
仕事の先輩であり、きっと、俺を恋愛対称になんて見ていない、

「おー!辻本!」

性別は”男”の上村だ。
中学のときからずっと一緒で、仕事のときにしか見せない真剣な顔、
普段の生活で見せる可愛らしいおどけた顔との差に惹かれた(と思う)。
大好き、と言ったら君はどう思うだろうか。
だから、俺は今日もじっと一人で黙って、動かない。動けない。

「で、婚約者とはどうなんだ?」

「ああ、今日も可愛かったよ。」

へら、と俺は笑いながら上村に言う。作り笑いなんて、慣れてしまった。

「おいおい、会っていきなりノロケかよ、誰かうちわ持ってきて!熱い!」

「うるせーよ、お前も彼女とか作ったら?」

「彼女なあ…、でも好きな人はいるぜ?」

―ぴたり。
コーヒーを飲もうとした俺の手が思わず止まった。
好きな、人?どういうことだ?聞いていない。…いや、ずっと聞けなかった。

「…、どんな、人?俺の知ってる人?」

「ああ、お前の知ってる人だぜ。優しくてー、可愛くて。何より胸が大きい!」

「…最後のは要らないだろ。名前は?」

しばらくの沈黙。どうしたんだと内心思ったが、
こういうときは黙っておいてあげるのが一番だと俺は知っている。
ミルクと砂糖がたっぷり入ったコーヒーを一口飲むと、上村は口を開いた。

「……………もうすぐ名字が辻本になるよ。」

「、は?」

俺は、口をぽかんと開く。そんな、まさか。…まさ、か。


「お前の婚約者だよ。」

「…っ、上、村…っ?」

「ずっと、ずっとお前が憎かったよ。」

「……上村、ごめ…っ」

「お前はいとも簡単に俺がずっと好きだった相手を手に入れてさあ、」

「…上、村っ!」

「それでいつもいつも、幸せそうな顔してて。」

「………上村、なあ!」

「絶えられるか?お前は、こんなことが何時までも続くんだぜ?」

「上村っ!!」

俺が大きな声を上げると、綺麗な涙を上村は静かに流した。
コーヒーを一気に飲み干し、席を立とうとした、瞬間。
俺は、上村の手を掴んだ。

「好きだったよ。婚約者よりも、甘ったるいコーヒーを上手そうに飲むお前が。」

そう言うと、上村は俺の手を振り払い、
千円を机の上へぶっきらぼうに置き、出口へと静かに消えていった。


「……いっそ首を切ったほうが楽なんじゃないか。」

俺は、そう呟いた後、あいつはもしかすると世界一幸せなんじゃないかとも考え始めた。


(いつか君がそれを受け入れてくれる日を)(俺はただ願っている)

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