短編!

□愛と勇気と少しの恐怖
1ページ/1ページ



「なあ、五月は俺のこと好き?」

ああ、毎日毎日良く飽きないものだ。私は北条という男と付き合っている。
いや、実際は付き合っていない。だけど、キスは普通にするし、体の関係もある。
私のほうから付き合ってるなんて言っていないのに、
北条は完璧に付き合った気で居ているのか。

「好きだとは言えないよ。でも嫌いとも言えない。かといって普通とも言えない。」

私はそう言い放つと、リップクリームを塗った。
すると、北条は満足そうな笑顔で

「そっか。明日は好きって言ってね!!」

と、まるで子供のように言うのだ。
私は、こいつの事を嫌いではない。でも好きだとは言えない。
普通じゃないからだ。少し、少しだけど人と違う。
ポジティブ思考にも程がある前向きさ、
どちらかといえばチャラチャラしているのに髪は染めずに、
タバコも万引きも浮気もしたことが無いという(それはチャラチャラしているのかと聞かれると困るが)。
しかも、聞いた話だと、告白をしたことが無いらしい(されたことはあるが)。
純粋と言えば純粋だ。だけど、その中に一つの恐怖がある。
告白をされた時、この男はきっと人を嫌いなんだ、と思った。
人の体温を一番欲しているくせに、人を愛そうとはしない。
人と違う自分になりたくて、髪は染めず、悪いこともせず。
いい子でいることによって、愛されると思っている。
確かに愛されている。でも、きっと自分の思う愛じゃない。
人の体温が欲しい。欲しい。欲しくて仕方が無い。
だから、だからいい子で。人より目立つように。

「ねえ、」

「ん?なに五月?」

「あんたに私あげるよ。」

「……………いらないよ?」

「いや、あげるよ。」

「なんで?」

私はこれまでかという笑顔で、こう言った。

「あんた、私と出会っちゃったから。」

ひらり、と私が持っていた紙が落ちる。
その紙には「HIV感染者カルテ」と書いていた。



(怖かったのは私だけ)(突き放されるのが怖かった)


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ