短編!

□近い空
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朝起きると、ある部屋にいた。
窓も、ドアも無い。だけど、天井も無い。
天井から見える空があまりにも近かったので、高いビルの屋上なのかと推測できた。
部屋を見渡すと、そこにある物はキッチン、食料(痛みやすいものは少ししかない)、風呂、トイレ、ベッドがあった。
そして、女が居た。
女は可愛くも不細工でもなく、極めて普通の女だった。
だが、一言も言葉を発しなかった。
何故分かるかと言うと、先ほど話をしたからだ。

「あの、ここはどこでしょう。」
「あの、あなたは誰でしょう。」
「僕はどうなるんでしょう。」
「何か知っていますか。」
「僕はあなたとどうなるのですか。」

というように次々に質問をしたが、全く返事が返ってこなかった。
僕はため息をついた。やはり空は近かった。

それから何日が経っただろうか。僕は食う、眠る、セックスをするを繰り返していた。
暇だからだ。だが、この女は俺のツボを知っている上に、その最中だけはなんだか可愛いのだ。
だけど、嫌気が差してきたある日、俺は女を使って脱出しようと考えた。
キッチンの上に女を乗せて、肩車をして貰って天井から脱出。華麗だ。
死んでも、きっと僕なら死なないだろう、という自信が何故か溢れてきた。
女にキッチンの上に乗れ、と命令すると、女は素直にキッチンの上に乗った。
続いて、俺を肩車しろ、と命令する。女は、また素直に肩車をする。
男一人を持ち上げる力にも驚いたが、そんなことはどうでも良かった。
この空に近い何処かわからない所から開放される。自由だ。
もう暇になんかならない。妻と子供も待っているはずだ。
俺は激しく脈を打っている心臓に手を当て、深呼吸してから天井を飛び越えた。
その瞬間、俺の目からは涙が溢れた。


さっきまでいた空に近いはずの部屋は、高いビルなんかでは無く、一階だったのだ。




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解釈はご自由に。
 

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