短編!

□落ちるならせめて笑顔で
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いつも僕は僕の口から流れる嘘に心を奪われるのです。

→嘘つきな男のお話

「お久しぶりです。」

「あっお久しぶりです。××会社の…」

「ええ、大和田です。」

にっこり。
張り付いた笑顔が今では憎い。
―忘れたかったのに。
神様なんてものは残酷で、わざわざ自分の誕生日に想い人に会わせてくれた。
正式に言うと、元、想い人なのだが。
彼の左の薬指にはきらりと光る指輪がはめられていた。

(ちきしょうちきしょう。
ビッチになんかに引っかかりやがって。
俺の方が、何倍も、何十倍も幸せにするのに。)

頭の中はぐるぐると、結婚相手の悪口ばかり。
だけど、自分のことを覚えていてくれた。
それだけで、十分すぎるほどの幸せに浸れた。

「あれ、コンビニ弁当なんですか?」

ったく、結婚相手は何してんだよ。
やっぱり能無しは弁当すら作れねえってか?
心の中はもうどろどろ。片思いは美しいとか偉そうに言うけど、そんな訳ない。
ぐっちゃぐちゃで相手の隙を見計らって、心に入り込もうとしている。
ずる賢い。ああ、なんて汚いんだろう。

「はは、そうなんです。今日は嫁が寝坊しちゃって…。」

口角が上がり、口元が緩む。
幸せそうに笑う相手を見て、思わず殴りたくなった。
寝坊?笑わせるな。
そんな事、俺は絶対絶対しない。
毎日出来るだけ早く寝て―…
…寝れなかったんだ。結婚相手は。
寝かせなかったんだ。この人は。
嫉妬と嫉妬と嫉妬で顔がぐにゃりと歪む。
でもそれは一瞬のことで、すぐに笑顔に戻す。

「いいですねえ、僕なんて寝坊する嫁も居ませんから。
結婚したいですよー、藤田さんみたいに幸せになりたいです。」

にっこり笑いながらそう言った後、隣いいですか?と確認し、
ベンチに座る。隣に座れたという事だけで心臓は爆発寸前。
だけど、少し照れながら笑う相手の顔を見て、
また結婚相手が疎ましくなる。

「いやいや、うちの嫁はドジばっかりで。
この前も―」

つらつら、惚気にしか聞こえないエピソードを聞かされる。
耳を塞ぎたくなるが、相手の声は聞きたい。
溜息を飲み込んで、にこにこと相手の話を聞く。
素敵じゃないですか、というと真っ赤になり、笑顔で頭を掻く。

(可愛い、なんで俺のものじゃないんだろう。)

湧き上がる嫉妬、俺はぐっと我慢し、ご飯を食べながら
話し続け、時間になった。

「では、ここで。楽しかったです。また飯でも行きましょう!」

「はい、是非!あ、これアドレスです、メールしてください。」

アド、レス?
どきん、と心臓が跳ね上がる。
笑顔で手を振り、去っていく相手。
手が震えてしまうほど、心臓の動きが早くなる。
嬉しい、嬉しすぎる!
この嬉しさと湧き上がる嫉妬を抑えながら、
アドレスを登録する。「藤田 想也」
携帯に映し出されたその文字だけで、今日は幸せに―
そう思った瞬間、メールが届いた。
「藤田 雪花」
『今日行ける??
 旦那残業らしいから…できたら来て??』
女らしいそのメールを見て、思わず表情が変わる。

「やっぱり、壊すのは内側から、だな。」

そう呟いた後、肩を揺らせながら笑った。
きっと、未来は暗いだろう。だけど、あの人が居るなら、それでも。


(愛してる、好きだ)(だったらなおさら落ちて行きたい)



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