D灰夢

□云えるのは
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任務が終わって、教団につく。

何時も俺の大切な人は、帰って来るとコムイから連絡が入って報告書を出している間に俺の部屋に移動して「おかえり」をしてくれる。

人肌に慣れない俺も、
その時…いや、そいつとじゃれあうのだけは、心地よく感じる。

それは任務帰りの疲れた身体を癒してくれる唯一の物だった。



室長室前
軽くノックをして名前を云うと、ドアの向こうから入室を促す言葉がかけられるので、今、こうして扉を開けた。



「報告書、出しに来まし…ッ!?」



サッサと歩きながら中へ入って紙の束を机の上に置き、上司に軽く目を合わせて会釈をする。
不意に腹に手が回って来て後ろにペタリと某がはっ付く。

何かと勢い良く顔を後ろに向ければ、そこには俺の部屋に居る筈の女子が抱き付いてきていた。



「ッ…オイてめ何やってんだよ離れろ」

「や」



流石に此処ではマズいだろうと思ってみれば、慌てて手を掴んでぺいっとひっぺがす。
彼女はいやいやと首を降りながら又同じように抱き付いてきていた。

嗚呼なんて心地いいんだろうか
楽しくも何ともない任務をして完全に心も身体も冷えきった処に
温かい某が宿ってくる。



「(俺もどうかしちまってんな)」



意識しなくとも自然と緩んでしまっている口角に気付かないでいると、くすくすと笑い声がきこえてきた。

ハッとすればそれは自分に向けられている物だと分かり、頬の体温が一気に上昇する。

がるると効果音が出そうなくらいに勢い良く睨み付ければ、なんとも心地悪い笑みに身体は完全に硬直した。



「あんだよ」

「報告書頂きました、クク…神田くんつばめちゃんにホントめろんめろんだね、さっきから、ニヤけてる」

「はッ」



先程まで自分の手元にあったそれで口元を隠しながら笑う上司に一発入れてやろうかと腰に刺してある六幻をすらりと、引き抜───



「アハハ、ほら神田くん姫様が待ってるよ、イノセンスしまってしまって」

「神田さーん…」



そろりと表情を伺えば捨て犬の如く潤む瞳を発見。

か、か…可愛い

しばし幸せに浸っていると(おいてめぇキャラが違うとか云ってんじゃねぇ)ふと気がつく相手の目。

みればとろんとしていて、頬は淡く染まっていた。



「?おいお前、大丈夫か?」



腰を引き寄せて額をグイッとこちらに向けさせて手を置けばジンワリと熱い。

熱、決定。

反応がないあたりきっと間違いでは無いのだろう。
心なしか自分に抱き付く力が弱い気がするし。

俺はグイッと手を引っ張れば出入り口のドアノブを握る。



「報告書は出した。邪魔したな」



ガチャリと開けてまだ誰もいない自室へと足を進めた。





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