偽人夢
□ライナスの毛布
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「おい…大丈夫か?」
俺が薬と濡れタオルを持って生の元へと戻ってくると、彼女は既にぐったりとしながら布団に横たわっていた。
しゃがみ込んで相手の額に手を宛ててみればかなりの熱さだとわかり、大丈夫かなと心配をすればそのまま相手の頭を優しく撫でてやる。
すると、彼女はゆっくりと目を開けてきゅっと自分の服の裾を掴んだ。
「薬馬さん………頭痛い」
「知ってる」
絶賛風邪引き中の生にキンキンに冷やしたタオルを置いてやると、彼女は驚いたように目をつぶってひゃ、なんて可愛らしい声を出した。
「ぎゅーしてー……薬馬さん…」
普段も相当な甘えん坊な彼女は、何時にもまして甘えてくる。
そんな彼女を愛しく思えば、身体に成程負担をかけないように優しく抱き抱えて、身体を起こさせる。
次に脇に手を入れれば、優しく抱き締める。
彼女は、途端に強く抱き付いて来た。
「あまり無理するなよ、悪化する」
「ぅー……側にいてくれれば無理しないですー……っぁー…」
頭を押さえて眉をしかめながら体重を預けて来る生をなだめれば、先程持って来た薬に目が行った。
そういえば当初の目的はこれなんだよ。
一度相手から手を離して薬に手を伸ばせば、きっちり掴んで相手に見せる。
飲みやすいように袋を斜めに切ってやれば、彼女はいやいやと首を横にふった。
「なんだよ、のまねぇと良くならないぜ」
「や!…それ薬馬さんが作ったやつだがん。…絶対にがい。や」
「飲め」
「や」
何度説得してもなかなか首を縦に降らない彼女に呆れれば、俺は薬を口に含んで水を中に流し込む。
口を噤んで相手に顔を寄せれば、彼女は顔を真っ赤にしてタオルをぎゅっと握り締めていた。
おろおろする相手の腰を左手で支えて、右手は顎をくいっと持ち上げれば既に涙目になっている。
「ゃ、薬馬さん…だめ、だって風邪うつ…んんっ」
相手の言葉を無視すれば、自分の唇を相手のそれにぐっと押し付ける。
びくっと肩を震わせると逃げ腰になってしまった彼女の腰を引き寄せると、なかなか開かない口を無理矢理こじあけて、舌を捩じ込ませた。
そのまま薬諸々を流し込み相手が飲み込んだのを確認すれば、くちゅくちゅと相手の口内を犯して行く。
「ん、ぁぅ……んんっ/」
一度離して酸素を入れてやれば、又角度を変えて舌を絡ませる。
どちらとも分からない雫が落ちた所で、リップ音と共に唇を放せば、滴るそれを親指で拭う。
「はーっ…はーっ/」
肩で呼吸をする彼女をそっと抱き締めると、もう一度最後に触れるだけの軽いバードキスをくれてやった。
「何回目だと思ってんだよ、そろそろ慣れろ」
「だって…やっぱり何回しても恥かしいですもん…」
きゅーっと目をつぶって真っ赤になる彼女に溜息をつけば、頭をくしゃくしゃと撫でてやる。
すると、彼女が何時も持ち歩いているタオルが、手からパサリと落ちた。
「おい…お前ライナス毛布のタオル落ちたぞ」
拾いあげて相手に差し出すと相手は軽く首を振った。
「は?お前これがないと不安で仕方ないんだろーが。それとも何か?ライナス症直ったのか?」
俯きながら布団をぎゅっと握っている彼女をみれば、やっぱりとタオルを相手の肩に置けば、急に抱き付かれて身体が動いた。
背中をぽんぽんと叩いてやり、何かと顔を覗く。
「タオル、今日はいらない」
「生?」
ぎゅーっと抱き締めながら顔を自分の胸に埋める彼女を抱き抱えれば、顔をあげて、こちらを見つめる。
「だって、今日一日は薬馬さんが付いていてくれます。抱き締めてくれます。」
「?は?」
「…貴方がライナス毛布の変わりになってくれるのでしょう?」
可愛く小首を傾げる彼女に、もう一度キスをお見舞いしてやった。
end.