偽人夢
□1st Love
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「蝶左さーん!」
「ん、」
こいつは何時だって、こうやって抱き付いて来る。
何時の日か甘えられるなんて行為を簡単に許してしまっていた自分は、彼女の背中を優しく包み込む。
ちょっと最近キスしたいとか思う。
なんて俺らしくないワケ。
思いながら、俺は彼女の項に顔を埋めれば香る甘い香り。
俺はこの匂いは嫌いじゃない。
「あー、またちょーざが生とラブラブしてるー!」
「ッだから違うって云ってんだろ!俺らはんな関係じゃないワケ、分る?う ず め」
「……」
なんだろう。
生の顔が少し曇った気がする。
うずめと顔を見合わせてうなずいた。
そして俺から離れると、うずめの方まで歩きひしりと抱き付く。
あれ、なんで俺今、ちょっと苦しくなった?
「2人ともちょっとこっちに来てくださいますか?」
ねーちゃんが呼べばそこにいく2人。
「どうかしたのか?」
そこに医者がやってきて、俺に話し掛けて来る。
どうやら知らない内に固まってしまっていたようだ。
そういえばこいつは医者だったな。
なら、この原因不明の動悸の理由が分るかもしれない。
俺は医者の隣りにどかりと座れば、最近の専らの悩みをぶつけてみた。
「俺、最近生をみると胸が苦しくなったり、抱き付かれるとキス?したくなるし、動悸が止まらなくなるんだけど、医者、これ何かの病気?」
見れば彼はクスクスと笑っていた。
「おま、それは恋以外のなんでもないだろ」
「ハ?何云ってるワケ?俺は別にあいつといても甘酸っぱい気持ちにはならないし」
「ブハッお前…馬鹿か?それは恋だ。俺はてっきり両想いで、いちゃこらしてんのかと思ったのにな。特に生。あいつはマジみたいだしな」
可哀相だとでも云いたげな医者を見て俺はその場を後にする。
これが恋?
んな訳あるか。
恋をした事なんてないから、分らないけど。
なんとなく生が気になって彼女を探せば、そこにはうずめとねーちゃんがいた。
「まーまー、きっと本心ではないですわよ。気にしないでくださいな」
「でもッ蝶左さん、でもッ」
「ちょーざは無愛想だから仕方ないってー」
「もう良いもん、告白したって叶わないって分かったから」
嗚呼なるほど。
今分かった。
不意に抱き締めたくなったり、
不意にキスしたりしたくなるのは。
恋をしてるからなんだ。
俺は、すぐさま彼女の元まで走れば抱き付いて、額に優しくキスをした。
1st Love
(好きだって伝えたら彼女は泣いた)
(それに嬉しいと思ってしまったのは多分)
(君が嬉しそうに抱き付いて来たから)
初めての恋は、
まだ始まったばかり。
end.