わぐなりあ

□*恋色、雨水色。
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ザーっと雨が降りしきる中、
彼女を見つけた。


彼女は、濡れた前髪を指で挟みながら、店の裏でぼんやりと空を見上げている。
たまたまシフトを確認しに来たらこの有様。

どうやら彼女は、バイト中に雨に降られて帰れなくなってしまったんだろう。


なかなかメンバーと打ち解けられない彼女は、飛び切りの恥かしがり屋。
君に恋をしたのは何時からだろうか。




俺は、傘をくるりと一回転させて彼女の前に立った。



「入れよ」

「ぁ……」

「帰るんだろ?」



うつむいて流れた雫はぴちょんと音を立てて落ちて行く。
あの、その…。なんて云いながら首をふる彼女の腕を掴めば、優しく引いて傘の中へ誘う。


彼女は驚いたようにこちらを見つめていた。



「別に取って食おうなんざ思ってないからよ、そんな驚くな」

「ぁごめん…なさい」

「いや謝らなくていいけど」

「ごめんなさい…」

「………(調子くるうな)……」



取り敢えず一度優しく頭を撫でてやり、足を進める。


濡れないように気を使いながらいれば彼女は小さくくしゃみをする。

何も云わずに手を取り、乱暴に自分のポッケへ納めれば、彼女は小さく笑った。



「有り難う御座います」



えへへと控え目に笑う彼女に、今一度恋をしてしまった。







恋色、雨水色。



(今にも消えてしまいそうな彼女)
(ちょっと触るだけで壊れてしまいそうで)
(俺は、優しく肩を抱いてみた)
(何時か想いが届くと信じて)













end.

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