カゲロウプロジェクト

□子供なキス
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「海莉、何を見てるの?」



僕は、目の前でぼーっとしていた彼女に声をかける。
その姿はとても恐ろしいもので、目に光は届いてなくて、どこを見ているのかわかりやしなかった。

僕が話しかければその目に光は戻ってきて、安堵のため息をつく。
そして横に座り、自分よりずっと年上の彼女を見上げた。



「んー、なんとなく、ぼーっとしてた。別になにかを見てたわけじゃないよ」
「じゃあ、考え事?」
「いいや、特になにも考えてないかな」



僕は知っている。
海莉が学校に行っていないことを。
辛くて辛くて、ここに逃げ込んでいることを。
でも、それを此処にいる誰にも話もしなければ、かくして笑っている向けだった。

素顔ではなくはりつけの笑顔でいることを、きっと皆が気がついている。
でも、きっと話題に出さずに包み込んであげたいも思ってるんだ。

いつか、ほんとに心から笑ってくれるようになるように。
それは、僕じゃなくて、きっと皆の考えで、でも一番強く思っているつもりだ。



「如月は、何時もテストで赤点ばっかなんだって」
「そうなんだ」
「うん、海莉は勉強できるの?」
「まぁ、そこそこかな」



会話にならず、何時も途切れてしまう。
僕がしたいことといえば、海莉の心を支えること。
おばさんにしてもらったみたいに、心の底から勇気を与えてあげたい。

きっとこのことを、皆も薄々気がついていると思う。

まぁ、そりゃあ毎日べったり付きまとってたらわかるか。


儚い恋心だなんてことは百も承知だ。
そもそも、年齢がかけ離れている。
でも、力になることはできるはず。

海莉は、どうしたら笑ってくれるのだろうか。



「ヒビヤくんは、好きなものとか、あるの?」



いきなりの問いかけ。
僕はぶっきらぼうに答えた。



「あるよ。」
「なに?」
「海莉には教えたげない」



むー、と表情が目にはいる。
あ、始めてみた顔だ。
無表情じゃなく、作ったものじゃないほんとの顔。



「教えてよ、ケチ」
「じゃあなんか対価頂戴よ」
「えー?」



ふふふ、と笑う顔。
えっと、えっと、あれ?
これ、始めてみる笑顔だ。

なんで、こんななんでもないことで笑うのだろう。



「じゃあ、私の好きなものを教えてあげよう」
「…やだ、それじゃだめ」
「…えー」



今日の海莉は感情豊かだ。
ちょっと意地悪してみよう。
僕は彼女の唇を指差した。



「キス、してよ」



真顔を頑張ったがやはり少しひきつってしまう。
彼女はというとすこし驚いた様子だった。
しかし、ふわりと笑うとこちらの顔にてをそえてくる。
え、ちょっとまって、あれ。



「おませさん」



きゅっと見上げた目をつむり覚悟すれば、期待していた場所ではなく、頬に触れる感覚があった。



「海莉、ぁ…」



うっとりとした大人の表情。
あぶない、だめ押さえられない。
そして、彼女は口を開けた。



「好きだよ、ヒビヤくん」



照れ臭そうに笑う彼女に、昔テレビで見ただけの、キス、とやらをお見舞いして見せた。






















子供なキス



(その好きはどの好きなのだろうか)
(期待しても、いいのだろうか)
(君の心を支えられるのか、わからない)













2013.12.13
久々の更新過ぎて書き方忘れました(^ω^)
ヒビヤくん可愛すぎぺろぺろ!
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