いずも夢
□鼻歌と恋
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「らんらんらん♪」
たまに訊こえるこの公園。
訊こえるのは、女の子鼻歌。
綺麗なそのメロディにいつしか俺は、惹かれて行った。
なんて素敵なその声。
公園の外から、何時も訊くその声を探し求めてみたい。
そんな気持ちで、俺は歌声が響く公園に足を踏み込めてみた。
「♪幸せなら〜何時も此処にあるの〜」
段々と近くなる声。
歌詞も分かるようになれば、その歌声が上の方から訊こえて来るのが分かった。
何故だろうと思いながら上げる視線。
そこには、高い木。
上に登って楽しそうに歌う女の子。
俺はそれを見て驚くしかなかった。
だってその子は、俺と同じクラスの海莉だったから。
だってその子は、俺の好きな人だったから。
「梢?」
「!」
当たり前にぴたりと止まる声。
こちらを見て目を丸くさせる彼女は、小さく口を開いた。
「く…國崎…くん?」
「よぉ、梢…この歌お前だったんだな」
「國崎くんだ、って…私が歌ってるの知ってたの?」
「綺麗な歌だなって思ってた」
「嘘ぉおおッ!」
「ばッお前落ちるって、身乗り出すな!」
ぇえええッとこちらを見ながら驚く彼女は、ぐっとこちらに身を乗り出した。
危ない。
注意したけど時既に遅し。
彼女はバランスを崩して、足を踏み外してこちらに向かって真っ逆様に落ちて来る。
「嘘!?やだやだやだ落ちる!」
「だから云っただろ!?」
まさか出来るとは思わなかった。
一か八かで受け止めようと手を伸ばせば、どうやら俺は押しつぶされて息絶える事は無かったようだ。
いや、押し潰されたのは間違ないけど。
「ッ…!」
目をきゅっと閉じて、ふるふると震える彼女は俺の服をきゅっと握りながら怯えているようだ。
うん、可愛い。
やっぱり、海莉は可愛いと思う。
「おい、大丈夫…か?」
「ぁ…だ、大丈夫だよ」
「(嘘だな…)」
未だに震える彼女は、退こうと手を伸ばしたみたいだが男を見せたい。
一瞬ためらいながらも、俺は彼女の背中に手を伸ばした。
「ぇ…」
「怖かったんだろ?……安心するまで抱き締めてやるよ」
「え!?ちょ…」
自分でもかなりなとんでも理論である。
しかし彼女も相当怖かったのか、納得してこちらに寄り掛かっていた。
そんなに怖いなら最初から上るなよ…。
きゅっと抱き締めて、二人の距離を感じる。
何だろう、距離が近いから息遣いがよく分かるし抱き付いてるから胸も、その…少し中ってるし。
女の子らしい匂いがする。
「ぁ、有り難ね、國崎くん」
「ぁいや、大丈夫…」
俺は、照れ隠しに強く抱き締めて気付かれないように額にキスをした。
鼻歌と恋
(暫くして見る彼女の顔はとても赤くて)
(思わず云ってしまった言葉は)
(いま、此処から始まる恋の物語)
end.