いずも夢

□伸ばした手
1ページ/1ページ





「どうしたんだい?海莉」



君は、何時だってそうやって云う。
その度に私は、なんでもないって云う。

まるで、どうして分らないのとでも云いたげで。


そして、そのあとに絶対云うんだ。



「そう、なら良いんだけどね」



って云って、よくわからないとでも云いたげに苦笑いして向こうを見る。

私は、勇気がなくて、臆病で。
そんな自分が悔しくて、伸ばした手を直ぐに引っ込めてしまう。


本当は、その手を掴みたくて、でも出来なくて、私は何時も不満げな顔をしてしまうんだ。



「わぁ!紗英様ぁ!」



その声を訊く度にどんどん距離が縮んで行ってしまう気がして、悲しくなる。
君がこちらを見るから、ふわりと笑って踵を返せばそよぐ風。


今、ちゃんと笑えてるのかな。
違和感がなければいいけど。



「じゃあ私はこれで」



くいっ

途端に惹かれる腕は、間違なく君の手。
何かと見れば、その手は私の手まで来て指を絡ませた。



「泣かないでプリンセス。ごめんね、彼女との時間を大切にしたいんだ」



ゆっくりと引かれる手について行けば、人影のない体育館の裏で、抱き締められた。



「大丈夫。ボクは君だけだよ」



優しく触れて来たその唇が嬉しくて、君の背に手を伸ばしてみた。












伸ばした手



(それは知らない内に)
(君の手と重なっていて)
(何だか少し安心した)










end.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ