いずも夢
□伸ばした手
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「どうしたんだい?海莉」
君は、何時だってそうやって云う。
その度に私は、なんでもないって云う。
まるで、どうして分らないのとでも云いたげで。
そして、そのあとに絶対云うんだ。
「そう、なら良いんだけどね」
って云って、よくわからないとでも云いたげに苦笑いして向こうを見る。
私は、勇気がなくて、臆病で。
そんな自分が悔しくて、伸ばした手を直ぐに引っ込めてしまう。
本当は、その手を掴みたくて、でも出来なくて、私は何時も不満げな顔をしてしまうんだ。
「わぁ!紗英様ぁ!」
その声を訊く度にどんどん距離が縮んで行ってしまう気がして、悲しくなる。
君がこちらを見るから、ふわりと笑って踵を返せばそよぐ風。
今、ちゃんと笑えてるのかな。
違和感がなければいいけど。
「じゃあ私はこれで」
くいっ
途端に惹かれる腕は、間違なく君の手。
何かと見れば、その手は私の手まで来て指を絡ませた。
「泣かないでプリンセス。ごめんね、彼女との時間を大切にしたいんだ」
ゆっくりと引かれる手について行けば、人影のない体育館の裏で、抱き締められた。
「大丈夫。ボクは君だけだよ」
優しく触れて来たその唇が嬉しくて、君の背に手を伸ばしてみた。
伸ばした手
(それは知らない内に)
(君の手と重なっていて)
(何だか少し安心した)
end.