他作品

□割り切れてたつもりだった
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初めて私が彼の歌を訊いた時、私は感動したのを忘れない。
とても素敵な歌声で、とても心に響く歌詞で。


それから幾度もライブに行くうちに

顔を覚えて貰ったり、
名前を覚えて貰ったり。


ストリートの時は終わった後にほんの少しだけどお話しするようになったり。




それから、偶然街で会った時にお茶をしてメアドを交換して…段々お互いの距離が近付いて行って。

私はいつの間にか彼に恋をしていた。


初めてみた時に気がついていたけど。
この人の事好きになりそうって。

なんでかな、わかんないけど。




それからの毎回はとても楽しくてだけど同じくらいに辛かった。

叶いっこないって分かってたから。




だけどある日、彼が電話で話があるからって云われて
行ってみれば、


好きです 付き合って下さい


って云ってくれて。




凄く、凄く嬉しかったのを覚えてる。
だから、思わず抱き付ちゃった。


私、この人の特別になれたんだって。


だから、ライブに行ってもちょっと優越感だったのに。
物販の時に話し掛ける、甘い声色にどうしても嫌な気持ちが消えない。


私の人だよって云いたい。
でも、
駄目だって分かってる。



「もうりょーくん大好きぃウチ、結構真面目に好きなんだよぉ

「はは…有り難う」



片山さんが困ってるのが分からないのか。
凄い苦笑いしてるじゃん。

しかも、どうやって甘い声を表現するか分からなくて迷った挙句仕方ないから嫌々絵文字つけた管理人も困ってた。


…ごめんそこは管理人の無能さだけど、でも人に迷惑をかけないでよ。




私は横目でちらりと見ながら、紙コップのコーラをライブハウスの隅で座っていた。


この時間が一番嫌で嫌で仕方ない。



何人も何人も繰り返した所で人が少なくなって来たので、私は列の最後尾に並んだ。
最後尾にいた前の女が最悪だった。



「遼くん、アタシと付き合わない?友達にお似合いっていわれたんだケドどぉ?」

「へ!?ぁいや…その…」



ばっちりと片山さんと目が合った。
私は慌てて逸らしちゃったけど、そこは上手く逃れたみたい。

でも彼女はそれだけでは終らなかった。



「んー…じゃあキスしたら諦める」

「え!?それはちょっと…その」

「隙ありぃ!ちゅぅぅううう」

「んッ!?」



何があったのか一瞬理解出来なかった。
思考回路が停止して、暫くして気がつく。

彼女、片山さんにキスしたんだ。

気がついた時にはもう居なかったけど、片山さんが目を丸くして立ち上がったのが見えた。



「ごめ…ッ!俺、いきなりで、その!泣かないで!」

「え?」



云われるまで気がつかなかった頬を伝う雫。
私は、泣いていた。

ぎゅっと抱き締めてくれる彼のぬくもりに甘えて、私もきゅっと彼の服を握る。



「ごめん…ごめんね」

「たしッ……私まだしてないッ」

「うん、そうだね、だから」



そのとき、彼が私の顎を引いて優しく唇をくっつけてくる。
驚いて目を開ければ彼は右手で手を翳して視界を遮る。

かぷ、と下唇を食まれて、視覚がないため感覚がリアルに伝わって変な声が出てしまった。



「ッぁ…」



そのとき開いた口に舌を差込まれ、私のそれを探し当てられて、絡まればくちゅくちゅと音が響く。



「ん、ん!んぅ…」



恥かしくて震えていると、ゆっくり唇は離れて、変わりに強く抱き締められる。




相手の体温に安心すれば、私はぼっと赤くなった。












割り切れてたつもりだった



(でもキスは別だよ)
(だけど大人のキスを私にくれたから)
(凄くショックだけど忘れてあげよう)
(初めてのキスは涙の味がした)















end.

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