他作品

□キミハナニモノ?
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「すごーい!ヒロム君かっこいい…」

「そう…かな?」



僕は今部活で放課後に残っている。
今日は皆色々と忙しいみたいで、僕と川末さんと遊辺さんと真白くんしかいない。
あとは観客というか、遊びに来てる乙女ちゃんと入部希望の夏海空ちゃん。

僕と一緒で初心者で全く経験がないのに楽しそうだからと入って来た女の子だ。


川末さんは取り敢えず見学に来させて、入部かマネジかを決めるそうだ。



「やっぱり、楽しそう…だねッ!」

「楽しいよ」

「うん、知ってる。だってヒロム君楽しんで卓球してるもん」



夏海空は、ぺらりと先程僕を見ながら描いた卓球をしている僕の絵を見せた。
彼女は僕と良く似ている。
運動音痴で、絵をかくのが大好きで、中でもスポーツの絵が好きで。

唯、一つ違うのは彼女の絵には躍動感がきちんと搭載されている所。


見てるこっちからも分かるくらいにウキウキしている彼女は、すくりと立ち上がれば遊辺さんの所に歩み寄った。



「遊辺先輩、ラケット貸して下さい」

「ええよー?けど夏海空ちゃん初めてやろ?なら川末ちゃんか相川のがええんちゃう?」

「私、ましろんや遊辺先輩みたいにペンがいいのです」

「難しいで?ちょっぴり」

「その方がやり甲斐あるもん」

「…さよか」



カンカンとボールにラケットを当てながら話を訊く。
夏海空ちゃんは遊辺さんからラケットを貰って素振りを軽くしていた。



「んー…よっと!」

「ゎ、っと」



いきなりボールを投げられたからびっくりしたけど、取り敢えず打ち返す。
…ちょっと初めてにしては上手過ぎない…?

僕が初めて投げた時は掠ったりしただけなのに、一発でいれちゃった。
外れるかな、って思ったけど相手の取り安そうな場所にいれれば、彼女を見つめる。



「ゎわ、えいッ」

「上手い、ね」

「こらびっくりやわ」



夏海空ちゃんは僕に褒められた時に凄く嬉しそうにしていた。
冗談抜きで、形こそまだ不格好ではあるがちゃんと綺麗に打ててるし、ペンでは難しいと云われるフォアバックが出来てる…。



「ぁッ!!」




ケッと音を立てたボールは、ミドルまで来た。
ぱしりとボールを取れば乙女ちゃんが夏海空を抱き締めた。



「すっごいじゃん夏海空!あんた才能あんじゃないの?」

「ぇ…えへへ、有り難う!」

「……ぉー川末ちゃん、これは入部しかないよな?」

「……五月蠅い、黙れ…」

「嫉妬?才能の嫉妬ですね!?」



にへらーと笑いながら夏海空は僕にピースサインを出した。
……可愛いな畜生!!
ああそうです。僕は今夏海空ちゃんに絶賛カカカタ☆カタオモイ中!
だから卓球部に入りたいなぁ、という呟きを訊いた時に凄く嬉しかった。


すぐさま「良かったら部活見学に来ない?」と誘ってみたら来るだなんて云うから、今何気に緊張してるんだよね。



「ヒロム君も上手いね…!私が打ちやすい場所に投げてくれるもん」

「ぁ、あはは有り難う、でも僕より川末先輩のがずっと上手いけどねッ」

「ぅぇー?ヒロム君も充分上手いよー?」



遊辺先輩にラケットを返せば、彼女は僕の方に歩いて来る。
乙女ちゃんと手を繋ぎながら歩くその姿はとても可愛いったらなんの。



「凄い凄い」



ぽすんと置かれた手は、僕の頭を撫で回している。
えへへと笑うその顔に僕は何回ドキリとしただろうか。


僕も勇気を出して彼女の頭を優しく撫でてみると、彼女は微かに表情を変えた。



「…ぇ、えへへ…へ」



照れたようなその顔は、直ぐに隠れてしまったけど、僕はその感覚を取り敢えずひたすら感じていた。
そこ、変態とか云わない。



「夏海空照れてるー、かっわいー」

「へ!?おぉぉ乙女ちゃん何を云うのッ!!」



乙女ちゃんが云った途端に夏海空の顔は再び変化する。
先ほどとは違う真っ赤な顔。



「だってあからさまに照れてるもん。ちゃんと隠さないとだめよ」

「そんなこと出来ないよ!?好きな人と一緒にいたいから卓球したいって思ったなんて云えないよ!?」

「だってさー、ヒロム。よかったじゃん両想いで」

「「ぇ、…『ぇ』?」」



両想い?
一瞬僕たちが両想いって云われたように訊こえたけど気のせい…かな?
夏海空の方をバッと見れば、目が合って一瞬のうちに逸らされた。



「ぇ、あ…」

「全く…折角才能があるのに恋というくだらない理由で卓球をするとは…」

「才能者同士引かれ合ってるんやなー…」



心臓が止まらずに勢い良く動く。
皆が僕に視線を送って来た。
これは云うしかない。
僕は勇気を出して震える口を開けた。



「夏海空ちゃん、僕と付き合って下さい」

「ふぇ、い、いっちょ、付き合って見ますか…?」



間も無く彼女は入部して、卓球部の一員となった。
それから僕たちがダブルスで世界大会に進んだのはもう暫く先の事。












キミハナニモノ?



(いつも僕の隣りにいる君)
(後にも先にも行かなくて)
(ぴったり波長があってるんだ)















end

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