他作品

□きみといっしょに
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明るい光が差し込む中、僕は目覚めた。
今日はいい天気だ。

目を閉じてみると、心地よい風がふいており、青草の香りが鼻を掠める。
僕は、このにおいが大好きだ。


そうだ、散歩に行こう。
むくりと起き上がり足を動かせば、足元に何かをみつけた。

これ、なんだろう。

底には緑色で、太陽の光に照らされてきれいに光っている何かがあった。

僕は興味がわく。
この小さくてきれいなものは何だろう。

すん、と鼻を動かしてみた。
よくわからない。

つん、と手で触れてみた。
これは何だろう。

ゆらゆらとゆれるそれは、とても小さくて、軽く握ったらつぶしてしまいそうだ。

なんだろな、なんだろな。


じーっと見つめて時間が経過する。
どれほどの時間がたったのだろうか。

僕のおなかがぐぅ、と音を立てたからお昼くらいかな。
そんなことを考えながら、まだ飽きずにそれを見ていると、小さな、たぶん十歳くらいの女の子だろうか。

彼女は、きれいな水色の何かを持っていた。



「あら、はじめまして」



にこっと微笑む彼女は、僕の頭にすっと手を伸ばした。
なにをするの!
その手を両手でつかみ、ふーっと唸る。



「ご、ごめんね、ピカチュウがあまりにかわいかったから」



勢い欲引っ込まれた手。
少しおびえた顔で僕を見つめる。
ふんと鼻を鳴らす。

困ったように僕を見つめた彼女は、またごめんねとつぶやいた後に緑のきれいなものに持っているもので水を与えた。



「この苗はね、私が生まれたときに植えられたモモンの実の木なの。」



苗、これは苗っていうのか。
僕はそれを聞くと、水が入った容器を尻尾でつつく。



「あぁ、これはね、ジョウロっていってね、モモンの実のなる木を育てるための道具なんだよ」



はい、と手渡されたそれは僕にとって持ちにくくて、重くて、びっくりした。
彼女の真似をして水をかける。
光が反射して、きらきらと光った。


なにこれ、すごい!
ぱああ、と笑顔で見つめてやると、彼女もまた笑顔で僕の頭に手をまた伸ばした。

いいよ、べつに。
危害がおきないとなんとなくわかり、その手の動向を眺める。
その手は、僕の頭に乗り、なでなでと這っていった。
それは、とてもここちよかった。



「わたし、夏海空っていうの!よろしくね、ピカチュウ」



僕の目の前に差し出された手をしばらく見つめる。



「ピカチュウ」



僕は、仕方なく、尻尾を差し出し、握手というものをしてやった。
小さくて僕の手ではできないから、仕方なく、だ。


別に、彼女のことを好きになったわけじゃ、ないんだからな。

あまりにもうれしそうにはしゃぐ彼女が、いとおしく思ったから、仕方なく、握手してあげたんだ。

暖かいその手に、僕は不覚にもどきどきしてしまった。









きみといっしょに



(時を過ごしていくんだ)
(ちょとずつ大きくなっていくものは)
(この木の苗と、君への恋心)
















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