long -届け-

□弐 -別離がもたらすは-
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ナルト・サクラ「!!」


巻物にナルトが指を掛け、開かれる直前。それは別の手により止められる。


カブト「やめたほうが良い。」


カブトが投げた視線は鋭く、冷ややかなものだった。



―――――



互いに惹かれている。


それを頭で反芻すれば、何か詰まるような感情が胸を満たす。


川からのそう長くはない道のりでさえ、彼らには甘いようで、じれったいものに思えていた。




サスケ・キサラ「!」


しかしそれは目の前の仲間と、自分たち以外の受験者を視界に留めたことで吹き飛んだ。


サスケ「敵か!」


汲んだばかりの水筒はその一声を合図に地面へと転がる。


「…!」


キサラは無言のまま抜き放った刀を手にサスケと共に川原を駆けた。


―――――


私たちがいなかった間に、ナルトとサクラは巻物を開きそうになっていたのだという。しかしそれはカブトによって阻止された。


サスケ「ったく。救いがたいな。」


カブト「危ないとこだったな。」


サクラ「ごめんなさい…。」


ナルト「……。」


サスケとカブトによる戒めにナルトとサクラは項垂れる。


たしなめたのはキサラだった。


「気持ちもまあ分かるし、切羽詰っているのは事実だもの。…というか、私たちが戻るの遅くなってしまったからでもあるよね。」


カブト「だが、規則を破り途中で巻物を開いた場合は、何らかの形で試験を続行できないような仕掛けがしてある。…前回は開いた瞬間に催眠の術式が目に入るようになっていた。」


「なるほど…。開けたが最後、試験終了まで眠り続けることになるってことか。」


軽く頷いた私だったがカブトに対する疑念は膨らむばかりで、なぜ助けたと彼に目線を戻した。


サスケ「…で。あんたはどうしてここにいるんだ?」


カブト「ああ、ちょっと色々あってね。仲間とはぐれてしまったから、合流するために塔に向かっていたとこなんだ。」


―――――


私はカブトに刀を向け、構えた。


サクラ「ちょっ!キサラ、何やってんのよ!」


ナルト「そ、そうだってばよ!キサラちゃん!カブトの兄ちゃんは俺たちを助けてくれたんだってばよ!」


サクラ「そうよ!いくら私たちが天の書を持ってないとしても、助けてくれたカブトさんから奪うなんてあんまりじゃない!」


サスケ「…。」


三人の眼を順々に見、もう一度カブトを見据える。




サスケの瞳は私と同じように、カブトに対し疑念を抱いているように思えた。






カブト「キミは、キサラちゃんだっけ。なかなか手厳しいね?」


「…。そういう試験だもの。」


カブト「確かにね。…でも、キミは非情になりきれてないな。どうして攻撃してこないんだい?僕が油断していたときの方が簡単に巻物を奪えたはずだ。」


「そう…?そんな隙、あなたは最初から見せていなかったように思うけれどな。」


「それに。一対一の勝負の方が、やりやすいでしょう?」


カブト「…。僕には何のメリットもないし出来ればやりたくないんだけど、引いてくれないんじゃ仕方ない。いいよ。こんなに熱烈に誘われちゃあ、ね。」


サクラ「ちょっ、ちょっと!カブトさんまで何を!!」


止めに入ろうとしたサクラをサスケが行かせない。


サスケ「待て。好きなようにさせろ。」


サクラ「で、でもっ!二人とも怪我するかもしれないし…!」


サスケ「そういう試験だろ、これは。」


サクラ「…!」




キサラに続くようにサスケからも同じ言葉が発される。やはり、彼らの見据えるモノは同じなのだ。








この間にも闘いは始まっていた。


「カブトさん、結構乗り気ですね。」


先に攻撃をしたのはカブトで、クナイによる遠隔攻撃を仕掛けた。


カブト「知り合いとはいえ、襲ってきた相手には応戦しなきゃいけないからね。」


それらを全て捌き、キサラは高らかに言う。






「実は、新技があります。」


新技?全ての視線が集まると、ニヤリと笑ってみせた彼女。


「前々から、私だけ遠距離攻撃が出来ないことに何というか、敗北感があって…。」


「やっぱりハンディキャップは早いうちになくさないとと思っていたから。」


お披露目ということでと言うが早いかキサラは刀を握る右腕に左手を添える。体中から集められたチャクラを刀身に注げば、たちまち刃からはチャクラをもとにした蒼く揺らめく焔が漏れ出した。




サスケ「(あの蒼い炎は、あのときキサラの全身を包んでいたあれか…!)」


サスケ「(あのときからそんなに時間は経ってない。もう使えるようになっていたとはな…!)」


豪火球を容易く飲み込んだモノを再び目撃することで、彼女もナルトと同じように身の内に秘める異質なチカラ糧としつつ、急速に成長しているのだと、サスケには改めて見せつけられたような気がしていた。






ひと振りし、相手との距離を測るかのように左手を前に出した。


カブト「チャクラの一点集中に、それを空気中に発散させる衝撃波に変えるとでも言うところか。」


「…。まあ、受けてみてください。」


一つ。振り上げるように片手で振り切る。




回転しながら迫る三日月型の刃に、そして予想を上回るその速度にカブトは冷や汗が吹き出るのを感じた。


―――――


勝負は早々に着く。


カブト「!」


横なぎの斬撃で破けたポーチから二つの書が落ちた。


「…。」


ナルト「(キサラちゃん…。俺には何でキサラちゃんがこんなことすんのかわかんねえよ…。)」


カブト「く…、取られてしまったか…。強いな、キミは。」


「…取り返そうとは思わないんですか?」


カブト「返り討ちに遭うだろう…?僕に、そんな余力はないさ。」




中忍になるかを掛けた闘いのはずなのに、カブトは強く主張しようとはせずその結果を受け止めているようだった。


「(元より、一段落すれば巻物は返すつもりでいたけれど。)」


7度目の中忍選抜試験への挑戦というのは、こんなにもあっさりと諦めてしまえるものなのか。やはり疑念を拭い去ることは出来そうになく。






むしろ反論を掲げたのはサクラとナルトの二人だった。


「(二人は、この人を信じきっているけど。私には…。)」




ナルト「サスケ、お前は何とも思わないのかよ!!キサラちゃんってば全然いつもと雰囲気違うってのに!」


ナルト「てめえは、普段仲間想いキサラちゃんが、仲間から巻物奪ってるとこ見て黙りやがって!」




サスケ「…。」


サスケ「(違う。キサラはカブトを試している。…実際、こいつからは妙な違和感を感じるしな。)」


物言わぬサスケにナルトは更に、言い募る。


ナルト「…サスケ。てめえ、自分があんな仲が良くしてて大事にしてるキサラちゃんが、こんなことするようになっちまって良いって言うのかよう!!」






胸ぐらを掴み、その身体を揺するナルトの手をサスケが払った。




サスケ「てめえは何も分かっちゃいないな、ウスラトンカチ。」


サスケ「この試験のことも。キサラのことも。」






厳しく言い切られた言葉に私は冷や汗をかいた。


「(まずい…。思った以上に、事態が深刻に…!)」


サスケは私の意図するところに気づいていると思っていたのに…!






売り言葉に買い言葉。


もはや、論争の中心であるキサラとカブト、途中から一切を言わなくなったサクラを完全に蚊帳の外として、二人の間で闘争が始まりそうな不穏な空気が立ち込めた。




「…。カブトさん。これ、お返しします。」


サクラ・ナルト「えっ…?」


サスケ・カブト「…。」




―――――




ナルト「なんで、あんなことしたんだってばよ。」


無事道中で敵を撃破し、天の書を持って訪れた塔内。


隣に並んだナルトが言った。近くにこそ来ないが、その様子からサクラも私の答えを待っているのが分かった。




「途中で彼自身言っていたでしょ。巻物を揃えても慢心しない最悪の敵。コレクターのこと。」


ナルト「カブトの兄ちゃんがコレクターだって言うのか!」




「今回は、違った…!でも、あのとき違うなんて、誰が確信できたの…!!」


自身が声を荒らげたことに眉をひそめ俯いた彼女の表情は暗く、反論しようとしたナルトは思わず言葉を切った。




「ナルトもサクラも、カブトさんを全く疑っていなかった。サスケは何か思うところがあるみたいだってけれど。でも…。」


「ナルトに化けて出てきた忍、大蛇丸、音忍。対峙するたびに、しっかりしなければと思った。」






頑なに忍を否定し続けていた私に、あなたたちは、向き合う機会をくれたから。




「ナルトにサクラ。それにサスケくん…。」


大切という言葉では足りないと、思う。





「私は傷ついて、ほしくない…!」




守りたいと言ったその顔は、失う痛みを知っている者のそれ。


いつしか、食い入るようにキサラの言葉を聞いていた三人は、それぞれオモイを胸に拳を固く握った。




―――――




それが事故であったなら


避けることは出来ただろう。






それは、


意図したものではないのだから。






けれど


人が意識的に行うものを


避けるのは、難しい。






そこには


滅ぼそうという


負の意思が






確かに、


働いているから。












「月下光」
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