宝箱

□〜罪〜彼女の復讐
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本日。貴方の遺骸は、無事に消去完了致しました。
今の私は此の遣る瀬無い哀しみと絶望を、溜め息に変えています。
何だか、そぞろ人の世の無常を感じてしまうのです。
昨日まで存在した貴方と云う岸がいなくなってしまい、寄る辺無き空虚(くう)の私が地上を彷徨っています。
泣いても嘆いても、時間が進むばかり…。
脳の再生装置は、貴方との良き偽りの想い出ばかりが舞っています。

お別れ前夜。
待って、逝かないで。
私の愛しい貴方。
もう一度、虚構(うそ)の情でも可(い)いから私を抱いて欲しかった。
そんなに私を、私の父(かぞく)を怨むのだったら一層(いっそ)の事、激しく攻撃して欲しかった。
混じり気の無い憎悪を向けてくれたなら、私も後悔は無かったのに。
怨念の才能を開花させた貴方は、完璧な復讐鬼。
私の脳髄に刻まれた、何時ぞや貴方が一瞬見せた冷たい表情(かお)が忘れられないのです。
―――憎悪大破した貴方の復讐の効き目は長い。
―――哀情大破した貴方の復讐の効き目は濃厚。
―――愛情大破した私の感情が終わって、愛憎が始める。
私の隣には、存在(いた)筈の貴方が不在(いな)い。
私の隣には、もう虚構(うそ)の明るささえも無い。
所詮、私が貴方の総てを知る事は不可能だったかもしれない。

復讐を無事完了した貴方。
今頃、貴方は高笑いをしているでしょう?
其れだったら、私の歎(なげ)きを聞きな。
底辺(そこ)に沈めていた此の苦しみを感じな。
此の怨身(おんしん)の愛憎を受け取りな。

バンっ!!!

貴方に投げつけて散る菊の花々は、私自身。

「ママ、どうちてパパにお花投げつけたの?ねえ、どうちてママ泣いているの?いたいいたいなの?」

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