田舎姫

□第四話
1ページ/1ページ




「俺は二年の斎藤 一だ。」

「一年の、宇奈月 琴音です。」

とりあえず、歩きながら自己紹介。
やはり例の格好良い転校生の正体は彼だった。
けれど、そんな彼にこんなにも早く名前を覚えられる日がくるなんて、本当にびっくりだ。

話を聞くと、彼は東京から引っ越してきたらしい。でも、何故都会からこんなど田舎に越してきたのだろう。

「あの、でもどうしてこんな何もないところに?」

「・・・母が、病気でな。自然の多いところに住んだ方が良いと言われて、この町に来た。」

そこで、しまったと思った。私はなんて無神経な発言をしてしまったのだ。

「すいません!無神経でした!」

「いや、気にしてない。むしろ、不思議に思うのは自然だと思う。」

彼はそう言うが、今度からはもう少し気を付けよう。

「あの、不便ではないですか?ここ、本当に何もないから。」

「・・・そうだな。不便ではないと言えば嘘になる。実際、携帯が使えないというのは驚いた。」

「ここ、本当に電波が悪いんです。使えるのは家の電話か公衆電話だけ。
だから、皆携帯は持ってないんですよ。」

「・・・そうか。」

それでも、私は彼に伝えたいことがある。

「でも、私はこの町が好き。周りに時代遅れだの、不便だの言われようが、私はこの町を愛してるんです。
町の人たちは優しいし、友達も沢山います。
斎藤先輩もきっとこの町を好きになります。というか、なってほしいです。」

そう言うと、彼は少し驚いたように目を見開いた。けれど、

「あぁ、俺もこの町は好きになれそうだ。」

と微笑んで言ってくれた。

その微笑んだ表情にまた更に胸が高鳴ったのは私だけの秘密。




私は町唯一の商店街に案内した。商店街といっても、本当に小規模なんだけどね。

「ここに八百屋さんや魚屋さん、肉屋さんがあります。買い物をするなら、ここです。」

まず、魚屋さんに行くと、いつもの店のおじさんに声をかけられた。

「いらっしゃい、琴音ちゃん!」

「こんにちは!おじさんは今日も元気一杯ですね!」

いつものように挨拶をすると、おじさんは隣にいる斎藤先輩に目を向けた。

「おお、彼はボーイフレンドかい?」

すると、おじさんはとんでもないことを言い出したので、私は思い切り首を横に振った。

「ち、違います!おととい引っ越してきたばかりなので、道案内してるんです!」

「なぁんだ、そうなのかい?でも、確かに見かけねぇ顔だな。」

「斎藤 一です。」

斎藤先輩が律儀に挨拶をすると、おじさんはその態度が気に入ったようだ。

「お、いい顔してる上に律儀とは、良い男だな!
何か買ってくか?」

「・・・では、アジを二匹頂こう。」

「よし、じゃあ、今日は大サービスだ!一匹おまけしておくよ!」

「あ、ありがとうございます。」

斎藤先輩は魚を受け取ると、二回ほど頭を下げて魚屋を去った。私もおじさんに会釈をしてから店を出た。

「すいません、おじさん気が早くて勘違いされてしまって。」

「いや、だが、とても良い人だった。」

斎藤先輩がおじさんのことをそのように言ってくれたので、私は自分のことのように嬉しくなった。
彼が町の良さを段々分かってきてくれている気がしたから。

その後も、八百屋のおじさん、おばさん夫婦も、肉屋のおじさんも皆最初の反応は一緒だった。

「あらやだ、琴音ちゃんのボーイフレンド!?んまぁ、本当に良い男ねぇ!」

「いやぁ、琴音ちゃんもそろそろかと思ったけど、こんなに良い男を連れてくるなんてなぁ・・・。」

「いやいや、違いますって!」



「お、琴音ちゃん、ついにボーイフレンドができたか!」

「だから、違うってばぁぁぁ!!」






そんなこんなで、先輩が買い物を終えた時には、もうへろへろ。なのに、何故か先輩は笑っていた。

「せ、先輩、何で笑ってるんですか?」

「いや、すまん。皆、店の人が面白くてつい笑ってしまった。」

「もう・・・先輩は単に面白がってるだけでしょう?」

はぁ、とため息を吐く。すると、先輩は微笑みながら言った。

「でも、あんたのこの町を想う気持ちがよく分かった気がする。」

「え?」

「俺も、この町はきっと好きになれるだろう。」

それは、私にとって最高に嬉しい言葉だった。






.

 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ