田舎姫

□第五話
1ページ/1ページ




「だだいまー。」

「あら、お帰り。珍しく遅かったわね。」

「あー、ちょっとね。」

斎藤先輩と別れ、家に帰ると母の摩弥がご飯を作っていた。時計を見ると、五時半を過ぎていた。
私は部活をやっていないし、あまり寄り道をしないで帰るので、帰るのはいつも四時くらい。だから、今日は珍しいのだ。

「手伝うよ。」

「ありがとう。じゃあ、この野菜を炒めてくれる?」

私は台所に入って母さんの手伝いをする。これが私の日課。

私の家族は三人家族。でも、父さんは都会に出稼ぎに出ていて、家には私と母さんの二人だけ。母さんは専業主婦。
でも、やることなんてあまりないと思う。何回かつまらなくないかって聞いたこともあるけど、母さんはそんなことはないという。

「母さん。」

「なあに?」

「今日ね、都会から引っ越してきた転校生に町を案内したの。
そしたら、その人もこの町を好きになれそうって言ってくれて、本当に嬉しかったんだ。」

「そう・・・。」

すると、母さんは納得したように、なるほどね、と呟いた。

「だから、そんなに嬉しそうな顔をしてたんだ。」

「えぇ!?どうして?」

「だって、琴音の目が生き生きしてるんだもの。私には何でもお見通しよ。」

そう、私の母さんは意外と鋭い。でも、それが男の子だったということまではばれなかったので、私はほっと息を吐いた。




翌朝。

「行ってきまーす!」

いつも通り、制服を身に纏って家を出た。家から学校までは歩いて約十五分。近過ぎず、遠過ぎず、丁度良い距離だと思う。

「宇奈月。」

そんな時、後ろから低い声がした。私が少し驚いて振り向くと、後ろから斎藤先輩がやってきて、またまたびっくりした。

「お、おはようございます!」

「おはよう。昨日は本当に助かった。今度、俺に何かできるようなことがあれば、遠慮なく声をかけてくれ。」

「い、いえ!私、本当に大したことしていませんから、気にしなくて大丈夫ですよ!」

先輩があまりにも昨日のことに感謝するので、私は慌てて首を横に振った。
でも、それよりも朝から先輩と登校するなんて本当にびっくりだった。

それからしばらく、私たちは他愛のない話をしていたが、ふと先輩は何かを思い出すように言った。

「そう言えば、あの学校に剣道部はないのか?」

「剣道部?いえ、元々風浜高校は武道は盛んではないので、剣道部はないですね。」

「そう、か・・・。」

「あの、剣道をやっていらっしゃるんですか?」

「ああ。だが、ないのなら仕方ない。」

先輩はそう言ったが、本当に残念そうな顔をしているので、私は心苦しかった。でも、こればかりはどうしようもない。

先輩と話していたからか、いつもの道のりがとても短く感じた。
学校に着くと、私と先輩は二階で別れた。先輩の教室は三階なのだ。


けれど、私は教室に入った途端、マキちゃんを中心としたクラスメートの女子たちに迫られた。

「琴音ー?あんた、朝から格好良い、例の転校生と登校してくるなんて、見せつけてくれるわねぇ。」

「え・・・あの、その・・・」

「教えなさい!昨日何があったのかを!全て洗い浚い吐いてもらうわよ!」

周りの女の子もうんうんと頷いた。これはもう逃げられない。

私はあっという間に降参した。






.

 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ