田舎姫
□第七話
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「母さん!!」
「はじめ・・・。」
斎藤先輩は、とても焦った様子で私たちに駆け寄った。その表情には多少怒りも含まれていた。
「何やってるんだ、あんたは!買い物は俺が行くと言っているだろう!」
「でも、母さんだって外に出たい時もあるんだよ。今日は特に、身体の調子が良かったから・・・。」
「現に疲れた顔をしている母さんの言うことなど、信じられぬ!」
とても心配した上での怒りだろう。斎藤先輩は先輩のお母さんを叱ると、横にいる私を見た。
「宇奈月・・・気を遣わせてしまって済まない。後は俺が運ぶから大丈夫だ。」
「あ、あの!」
けれど、私は二人の力になりたくて、ある提案をする。
「先輩はお母さんをおぶってはいかがですか?とても疲れていらっしゃるようですし・・・。」
「しかし・・・」
「私は大丈夫ですから。それに、私はお二人の力になりたいんです。
この荷物、先輩のご自宅まで運ばさせて下さい。」
私が先輩に言うと、先輩は迷った末に頷いてくれた。
「済まない、本当にありがとう。ほら、母さん俺の背中に。」
先輩は私にお礼を言ってから、お母さんの前にしゃがみ、彼女を背負った。
「お嬢さん、本当にありがとうね。」
先輩のお母さんは申し訳なさそうな表情で私にお礼を言った。けれど、私は二人の力になれたことがとても嬉しかったので、『大丈夫ですよ』という気持ちで、
「どういたしまして。」
と笑った。
先輩の家に着くと、先輩は私にリビングで待つように言ってから、お母さんをおぶったまま部屋の奥に入っていった。
私は先輩の言う通りにリビングへ上がったが、買い物の荷物をどうにかしたかった。勝手にやって良いかと迷ったが、やはり買った物は早めに入れるべきだと思い、台所にある冷蔵庫の所へ行って、袋の中の物を中にいれていった。
中身を入れ終え、リビングに戻ると既に斎藤先輩は戻っていた。
「すいません、勝手に荷物を冷蔵庫の中に入れてしまいました。」
「いや、謝る必要はない。むしろ、俺の方こそ謝らなければならない。何から何まで、本当に済まなかった。」
「い、いえ!私はそれほど大したことはしていませんから!」
「そんなことはない。お前が手伝ってくれて、本当に助かった。ありがとう。」
「あ、はい、どういたしまして!」
先輩にまたお礼を言われて、私の中には再び嬉しさが込み上げた。やはり、人に感謝されることはとても気持ちの良いことだった。
「そこの椅子に座っていてくれ。お茶くらいしか出せないが、それで良いか?」
「い、いえ!私がこれ以上居座る訳には・・・迷惑がかかってしまいます。」
斎藤先輩がそんなことを言うので、私は慌てて首を横に振った。しかし、先輩はすぐにそれを否定する。
「迷惑などない。むしろ、迷惑をかけてしまったのはこちらの身だ。
宇奈月、お前さえ良ければ、このくらいはさせてくれ。」
「先輩は迷惑をかけていませんよ。私がお手伝いしたいとお願いしたのですから。
・・・けれど、お茶はいただくことにします。なんか、すいません。」
先輩の言葉に押され、結局それに折れた私は、リビングのテーブルの椅子に腰掛けた。やはり、何だか申し訳ない気持ちで一杯で落ち着かなかったけれど。
しばらくすると、先輩は緑茶の入った湯呑みを私の前に置き、先輩も自分の分を置いて私の向かい側に座った。
「あ、ありがとうございます。」
「済まない、大したものではないが。」
「いいえ、そんなことはありませんよ。」
私は一度『いただきます。』と言ってから、煎れたてのお茶をすすった。すると、ほのかな香りとほどよい味が交ざり合い、スッと喉の奥まで通っていった。
「美味しい・・・。」
それは、今まで飲んだお茶の中で一番美味しいと言っても過言ではなかった。
私が思わず呟くと、先輩は笑ってくれた。
「そうか、良かった。」
しかし、先輩はそう言うと、すぐに表情を元に戻した。それから、ぽつりぽつりと話し始める。
「・・・俺の母親は以前話したように、病気を患っている。病状はそこまででもないが、やはり注意が必要だ。」
だから、先輩はお母さんと一緒にこの町に引っ越して来たらしい。そのため、お父さんは東京で単身赴任の身だそうだ。
理由は異なるが、何となく私の家と似ていた。
「・・・母さんは、今日のような無茶を時々する。いつも俺がやると言っているのにだ。
俺は母親を養えるくらいの力はつけている。
だが、それでも母さんはまだ俺には力がないと思っている。宇奈月、俺はどうすれば良いだろうか?」
「先輩・・・。」
私は先輩の気持ちがとてもよく分かった。けれど、同時に先輩のお母さんの気持ちも十分に読み取れた。
私はそっと口を開いた。
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