田舎姫
□第九話
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「じゃあ、また明日。」
「頑張ってねー。」
「明日、報告よろしくー。」
終礼が終わり、私は教室を出る時にマキちゃんたちに声をかけると、そんな返事が返ってきた。
はいはい、と言いつつ手を振ってから教室を出ると、既に斎藤先輩が廊下で待っていた。
「すいません、お待たせしました。」
「いや、俺も今来たところだ。」
問題ない、と先輩はいつものクールな表情で答えた。
そんな先輩の容姿は周りの女子生徒を魅了し、彼の隣にいる私にもある意味視線が集中する。
正直、痛い。
「えと、帰りましょう?」
「・・・あぁ。」
とりあえず、この空間から抜け出したかったので、先輩に帰ることを促し、学校を出た。
「・・・その、学校はどうだ?」
初めは沈黙が続いたけれど、しばらくすると先輩が私に問い掛けてきた。
「とても楽しいです。私、特に仲が良い友達が四人いるんですけど、皆個性的で本当に面白いんですよ。
今日も笑ってしまいました。」
「そうか。」
「先輩はどうなんですか?学校は慣れましたか?」
今後は私が先輩に質問すると、先輩は少し困ったようか表情を浮かべた。
「完全に慣れた、と言っては嘘になる。俺は人と話すことが苦手で人付き合いも良くない。故に、あまりクラスには正直、馴染めていない。」
「そう、ですか。」
確かに、先輩はあまり喋る方ではないと思うし、無表情であることが多い。
でも、そんな先輩にも本当はすごく強い想いがあるし、優しいところもある。
これは、最近先輩と一緒にいて分かったこと。
「あの、何か私にできることがあれば、言ってください。いつでも力になりますから。」
「宇奈月?」
「先輩はとても優しくて良い人だから。私、そんな先輩の力になりたいです。」
「・・・・。」
すると、先輩は急に足を止めて黙り込んでしまった。私もどうしたのか、と思って足を止めた。
「先輩?」
「・・・あんたは、俺のことをどう思っているのだ?」
「えっ?」
いきなりの質問に、私は思わず声を漏らした。
「(思っていること、だよね?)とても素敵な方だと思います。先輩は確かにクールですけど、お母さん想いで、とても優しいです。私は先輩を尊敬していますよ。」
「・・・・そ、そうか。」
「はい。」
「・・・・。」
「・・・・。」
そして沈黙。その時、私は大事なことを思い出した。
「あっ!先輩、これどうぞ。」
私は鞄から調理実習で作ったものを取り出した。
「これは?」
「スイートポテトとカップケーキ、今日調理実習で作りました。
その、先輩に食べてもらいたくて・・・。」
「・・・・。」
けれど、先輩は目を見開いたまま固まってしまった。再び沈黙が流れる。
「先輩?」
「・・・・。」
「もしかして、甘い物嫌いでしたか?」
私が恐る恐るそう声をかけると、先輩は慌てて首を横に振った。
「いや、そういうわけではない!むしろそのっ、とても嬉しい、というか・・・と、とにかく嬉しいのだ!」
「・・・プッ。」
とにかく嫌いなわけではない、ということを必死に訴えかける先輩に、私は面白くて吹いてしまった。
「な、何故笑うのだ!」
「あははっ、すいません、先輩がとても面白くて。
でも、受け取ってくれるんですよね?」
「あ、あぁ。これは有り難く頂戴しよう。大事に食べる。」
「ありがとうございます。」
そういうわけで、先輩はスイートポテトとカップケーキを受け取ってくれた。
先輩のことだから、本当に味わって食べてくれるんだろうなぁ、と思った。
――と、その時。
「琴音?」
隣からふと名前を呼ばれた。すぐさま反応して、その方向に振り向くと・・・
「お母さん!?」
そこには、私の母である摩弥が買い物袋を両手に立っていた。
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