田舎姫

□第十話
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「ふふっ、斎藤君、ゆっくりしていってね。」

「あ、ありがとうございます。」

現在、私は自宅のリビングのテーブルに斎藤先輩と向かい合って座っている。どうしてこうなったかと言うと――――









「お母さん!?」

「あら、琴音。偶然ね。」

帰り道、買い物帰りのお母さんと出くわした。
お母さんは私を見た後、隣にいた先輩に視線を移した。

「あらやだっ!琴音ったら、こんなに素敵な彼氏できちゃったの!?」

「違うって!学校の先輩!」

途端に目を見開くお母さんに私は咄嗟に全否定した。まぁ、ここまでは想像できた。

「なんだ、そうなの?
ごめんなさいね。私は琴音の母です。いつも娘がお世話になってます。」

「い、いえ!むしろ、こちらの方がう――いや、琴音さんにお世話になってます。
自分はこの前引っ越してきたばかりで、琴音さんには分からないことを色々と教えていただきました。」

お母さんが先輩に頭を下げると、先輩も慌てて頭を下げた。
それにしても、先輩が私の名前を呼んだ時、私は一瞬ドキッとするような感覚を覚えた。

「そうだったの?それにしても、本当に礼儀正しくていいわねぇ。
あ、そうだわ!さっき、パウンドケーキ作ったから、あなたもおいでなさいな。」

「「は!?」」

けれど、その後のお母さんの発言に再び私は驚いた。それは先輩も同じだったらしく、言葉が重なった。

「い、いや大丈夫です!」

「遠慮なんてしなくていいのよ!」

「で、ですが――「ほらほら、琴音、家まで案内しなさい。」











そんなわけで、先輩はお母さんの勢いに負けてしまい、今に至るのだ。
でも、実はお母さんが先輩を誘った時点で私は先輩が負けるということは大体予想が付いていた。
だって、お母さんは一度言いだすとなかなか譲らない。私だって止めることが難しいのに、更に口数が少ない先輩が勝てるわけがない。
そんな意味では、お母さんの威力に圧倒される先輩は見ていて面白かった。

「何か、ごめんなさい。お母さんが強引で。」

「いや、大丈夫だ。」

私が謝ると先輩はいつもの何事もないような表情でそう答えたが、何となく若干そわそわしている気がする。



―斎藤side―

「はい、どうぞ。」

「ありがとうございます。」

緊張する中、俺の前にケーキと紅茶が置かれ、俺は頭を下げた。
ケーキには色とりどりのドライフルーツが入っていて見た目が良く、更に甘さも丁度良くて旨かった。

宇奈月の母親の摩弥さんは穏やかな顔つきで、何となく俺の母親と似ている。(とは言うものの、俺を誘う時の威力には驚いたが・・・。)

「あ、いけない!お隣の山田さんに回覧板回していなかったわ!
琴音ちゃん、悪いけど行ってきてくれる?」

その時、摩弥さんは思い出したように叫ぶと、宇奈月にそう言って頼んだ。
――って、ちょっと待ってくれ!

「えっ?あー・・・うん、分かった。山田さん家ね。」

しかし、宇奈月は一瞬悩むような仕草を見せたが、すぐにそれを承諾した。
――いや、待て!これでは俺が摩弥さんと二人になってしまうではないか!

「ごめんなさい、先輩。五分だけ抜けさせていただきます。」

しかし、一言も言う隙もなく宇奈月はすぐに家を出てしまった。
俺は益々緊張が高まった。





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